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翌日、響のお母さんと弟の久志君が病院に駆け付けた。
守りきれなかったことを謝罪した。
響のお母さんは、俺に非はないと言った。
その優しさがまた、痛かった。
退院の支度の為、俺は病室を出て休憩スペースで会社に電話した。
午後には出社することを伝えて電話を切ると、ベンチ椅子に座る。
溜め息が漏れた。
「休んだ方がいいんじゃないですか?」
そう声を掛けられて顔を上げると、久志君が目の前の自販機でパックジュースを買っていた。
「何か飲みます?」
「いや、大丈夫、ありがとう」
彼は対面になる前のベンチに座る。
「ケガ、大丈夫っすか?」
彼にそう問い掛けられて、シャツの袖から包帯が見えているのに気付いた。
実は響が治療中に、病院スタッフに指摘されて、自分もケガをしていることに気付いた。
揉み合った際に、相手に引っ掛かれたのか、だいぶ深く抉れていた為、処置して貰っていた。
俺はシャツの袖のボタンを閉めて、見えないようにした。
「大丈夫、大したことない」
「それも一緒に、伯父さんに慰謝料請求させますよ?」
その言葉に俺は苦笑。
「いや、必要ない。お姉ちゃんにも言わないで。知らない方がいい」
「ケガまでして守りきれなかったら、虚しいっすよね」
彼はそう言いながら、ストローでパックジュースを飲む。
飄々とした感じではあるけれど、彼から若干の苛立ちを感じる。
「お姉さんを守りきれなくて、悪かった…」
彼から感じた俺への責めのようなもの。
謝って済むことじゃない。
響が襲われてしまった現実は消せない。
「知らせて欲しかった……です」
彼の姉を思う気持ちがひしひしと伝わった。
午前中のうちに響は退院。
久志君が運転する車でお母さんと3人で彼女のマンションに帰っていった。
帰りはすっかりいつもの響で、安心したような心配のような気持ちが渦巻いた。
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