No.8 emotion

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午後から勤務し、俺は研究室に籠り分析を繰り返した。 単純で気が遠くなるほどの作業。 ほとんど徹夜の身体。 眠くなってもおかしくないのに、頭は冴えていた。 そして、トイレの片隅で震えて怯えていた響がフラッシュバックする。 手元が狂い、スライドを地面に落として割ってしまった。 「大丈夫ですか?」 近くに居た後輩が拾おうと手を伸ばしてくれた。 「大丈夫、自分でやるから。ありがとう」 ちり取りと小さなホウキで片してしまう。 「国分、休憩してきなさい」 様子を見ていたのか、枝野さんにそう声を掛けられた。 「いや、でも…」 「15分休むだけでも違うから」 そう言われて、研究室から出た。 ゴーグルを取り、白衣を脱いでデスクに置いた。 そして、部屋を出てすぐ横にある休憩スペースの自販機で缶コーヒーを買って、いくつかあるテーブルの一席に座った。 缶コーヒーをテーブルに置いて、息をつく。 胸の中で震える響の感触を鮮明に思い出す。 グッと拳を握った時だった。 「国分さぁん」 そう呼ばれて後ろから顔を覗き込まれた。 パッと視界に現れたのは浅野だった。 「休憩ですかぁ?」 ニコッと笑って俺の横に立っていた。 「あ、あぁ…」 「あれ、元気ない。どうしました?」 「いや…」 今、浅野と話すのは抵抗があった。 「響、元気にしてます?」 「……あぁ」 一瞬迷ったが、話せる内容じゃない。 嘘になるけど、そう返した。 「また4人で、前みたいにご飯とか行きたいですね」 「…あぁ」 響は、元通り生活出来るんだろうか…。 捕まったから終わりって、そんな簡単な話じゃない。 やっぱり、暫くはまだ一緒に住んで… いや、でも、 守れなかったのに…? 「国分さん」 浅野に呼ばれてハッとする。 彼女は寂しそうに眉を下げて笑った。 「完全に心ここにあらずでしたよ…」 「あっ、ごめん」 「…酷いです」 浅野はそう肩を落とした。 「浅野?」 「みんな、誰も私の相手してくれなくて…」 「いや、そんなことないだろ?水木と昨日少し話したけど、浅野の話ばかりしてた」 俺の言葉に浅野は苦笑い。 「直人と、顔見てちゃんと話せる時間が少な過ぎて…」 浅野は今にも泣き出しそうな顔でそう話した。 「浅野先輩!」 休憩室入り口のガラス張りから、浅野を呼ぶインフォメ制服の女性。 「あっ、ちょっと運びものがあって来ただけなんです。すみません、愚痴っちゃって…」 浅野はそう言って走り去って行った。 浅野のあんな顔ははじめてだ。 水木に知らせておいた方がいいかもしれないと思ったけれど、アイツはアイツで仕事でいっぱいのはずだ… 知らせて心配させても仕方がない。 二人で乗り越えることだ。 俺が関わる話じゃない。 それよりも、響のことだ…
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