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【本文】
昼休み。僕は翔とヒロキと三人で、教室でバカ話をしながら弁当を食べていた。近くの女子四人グループが、いつにも増してわいわいと騒がしくしゃべってる。
なんとなくその会話を聞いてると、「これはマジ凄い」とか「ホントに効き目ある」って漏れ聞こえてきた。いったい何の話だと思ってると、『おまじない』という単語が聞こえた。
女子はそんなのが好きだな。
バカバカしいと思ってたら、別グループの男子が「なになに? なんの話?」と興味深そうにその女子達に近づいていった。
「あんたには関係ない」
「そうそう、男子はあっち行け」
口々に邪険な言葉を浴びせられて、その男子は「ちぇっ」と舌打ちををしながら、すごすごと立ち去った。
「あいつもバカだな。女子のまじない話なんて嘘なんだし、ほっときゃいいのに」
僕がそう言うと、翔が真顔で「案外そうでもないらしいぞ」と言った。
「どういうこと?」
「今女子の間で流行ってるまじない、ホントに効果があるらしいんだよ」
「嘘だろ? どんなまじない?」
翔が言うには、好きな人に想いが伝わるまじないらしい。
真っ赤な封筒に好きな人の名前を書いた白い紙を入れる。それを一ヶ月間保管しておくと、好きな人に想いが伝わる。
んなバカな。そんなありふれた簡単な方法で想いが伝わるんなら、誰も苦労しない。
「まあ大した方法じゃないんだけど、これが案外効果があるらしいんだよ」
ホントかよ?
翔の言葉にタカシも怪訝な顔で「なんで効果があるってわかるんだよ?」と尋ねた。
「いや……彩香がそう言ってた」
彩香っていうのは同じクラスの子で、翔の彼女だ。彩香から聞いて、翔はおまじないのことを詳しく知ってるのか。それを聞いたタカシが口を開いた。
「そういえば、何人かの男子が『あの子は誰の名前を書いたんだろう?』みたいなことを言ってたな。なんの話かと思ったけど、きっとそのおまじないの話だ。あいつら、自分の好きな子が誰の名前を書いたのか、気にしてたんだ」
なるほど。まじないの効果なんて信じないけど、自分が想いを寄せる女子が書いたおまじないに、誰の名前が書いてあるのかは確かに気になる。僕は思わずありすの方をチラ見した。
木寺ありす。
小学校からの幼なじみで、高三の今も同じクラス。
小学校の時から僕が好きな子で、よく彼女にはちょっかいをかけて悪口を言ったりした。
高校生になってからはさすがに突き飛ばしたりは滅多にしないけど、それでも憎まれ口を叩いたりしてる。僕としては愛情表現のつもりだけど、ありすは大人しいタイプでいつも苦笑いを浮かべてる。
大人しいと言っても地味じゃなくて、目鼻立ちがくっきりした美人で、すらっとスタイルも良い。だけど気が弱いところがあって、なかなか自己主張をはっきりとできない性格をしてる。だから彼女が僕のことをどう思ってるのか、イマイチわからない。
でも僕は……そう、この歳になったら、僕のありすへの気持ちは、間違いなく恋だってことくらいわかってる。ありすも、そのまじないをして、好きな人の名前を書いたんだろうか。
僕らの間ではその後まじないの話が出ることもなく、すっかり忘れて帰宅した。玄関で妹の亜香里のスニーカーがあるのを見て、もう帰ってるんだと思いながら居間に入ったのに、誰もいない。でもリビングテーブルの上に、亜香里のペンケースと……カードサイズの真っ赤な封筒が置いてあるのが目に入った。
赤い封筒?
まさか……
昼休みにしていたおまじないの話が、僕の頭をよぎる。
ホントに単なる好奇心だった。
深く考えるよりも前に、テーブルの上の封筒を手に取って、中のカードサイズの白い紙を抜き出していた。そこに黒いマジックペンで書かれていたのは──
『兄』という一文字。
僕は全身が硬直して、頭が真っ白になる。
亜香里が僕のことを?
亜香里とは特に仲が悪いとか良いとかはなく、ごく普通の兄妹だと思ってる。いや、亜香里はよく僕の悪口を言うし、どちらかと言うと嫌ってるのかと思うこともある。
悪口?
そうか。僕も好きなありすにはついつい憎まれ口を叩いてしまう。
そうだったんだ。
その時トイレの方から、水洗が流れる音が聞こえてきた。きっと亜香里だ。
僕は慌ててカードを封筒に戻し、元あった位置に置いた。そして足音を殺して忍び足で廊下を玄関に向かう。
玄関ドアを内側から一度開けて、少し強い目に閉めてバタンという音を立てる。
「ただいまー!」
靴を脱いでるふりをしてると、廊下の横にあるトイレの扉が開いて、亜香里が出てきた。
「あ、お兄ちゃんおかえり」
「帰ってたのか」と、わざとらしく亜香里に声をかける。
「うん」
亜香里は気づいてないようで、ごく普通に答えて、僕より先に居間に入った。
続いて僕が居間に入ると、彼女は「あっ」と小さく声を出して、リビングテーブルに駆け寄った。亜香里は慌てて赤い封筒とペンケースを、横に置いてあった鞄にしまう。
「なにそれ?」
素っとぼけた僕の質問に、亜香里は「なんでもない」とぶっきら棒に答えたけど、僕を見ようともしないその顔は頬がうっすらと赤らんでいる。
僕は心臓がどくんと跳ね上がる。
亜香里は一学年下の高二で、学年でも可愛いと評判が高い。よく友達から「紹介してくれよぉ」なんて言われるけど、もちろん断ってきた。
別に僕が妹を女性として好きとかいうわけじゃなく、そう、兄として気にかけてたんだ。
だけど今、こうやって亜香里が僕を男として好きなのもしれないという証拠を見て、急に妹を女として意識してしまった。
亜香里は鞄を持って、うつむき加減に僕の横をすり抜けて、二階の自室へと上がっていった。
僕もそのまま二階に上がり、自分の部屋に入る。そして部屋着に着替えて、ベッドに仰向けに寝転がり、天井をぼんやりと見つめる。
薄い壁一枚隔てた向こう側に、亜香里の気配がする。極めて当たり前のそんなことに、今まで意識したことはなかったけど、鼓動の高まりが抑えきれなかった。
亜香里が、僕のことを……いや、まさか。
その後両親が帰宅して、いつものようにみんなで夕食をし、しばらく居間でだらだらした後に、亜香里も僕も自室に戻る。そんないつもの生活なのに、ついつい亜香里の顔をチラチラと見てしまう。
亜香里の方は僕を意識してるのかどうかわからないけど、なんとなくいつもよりも照れた表情を浮かべてるように見える。
やっぱり兄妹だし、それはマズイよな。できるだけ亜香里のことは意識しないようにするべきだな。
それから一週間が経った。
亜香里が僕を好きかどうかよりも、ありすが誰を好きかの方が大事だ。 しかしそう思うようにすればするほど、亜香里を意識してしまう。
今日も帰宅して居間に入ったら、亜香里がソファに寝そべってる姿を見て、鼓動が高まった。
体にぴたっとフィットしたチビティーシャツに、ピンク色のショートパンツ姿で、あらわにした太ももを投げ出すようにしてる。いくら妹とはいえ、可愛い顔をした女の子が家の中でそんな姿をしてるんだから、ドキドキするなって方が無理だ。
「ただいま」
「あ、お帰り」
亜香里の方もそんな姿を見られて恥ずかしかったのか、僕を見てさっと起き上がってソファに座った。少し顔が赤らんでる気がする。
あまりに毎日悶々としてて、僕はきっと少しおかしくなってるんだと思う。思わず亜香里に尋ねてしまった。
「なあ亜香里。あの赤い封筒のおまじないは、うまくいったのか?」 「えっ?」
亜香里は明らかに顔を真っ赤にして、あたふたとしだした。
「なんの話かなぁ?」
「いや、この前見かけた赤い封筒さ。あれは相手に想いが伝わるっていうおまじないなんだろ?」
「知ってた……の?」
焦ってた亜香里がぴたりと止まって、僕をじっと見つめる。
「ああ。三年女子の間で大流行してるって聞いたよ。二年でも流行ってるのか?」
「うん、まぁね」
亜香里は姿勢を変えて、あぐらをかいて僕の顔をじっと見つめた。
「それで……亜香里の想いは相手に伝わったのか?」
「えっと……どうかな? わかんない」
恥ずかしそうな亜香里が、妹なのに可愛すぎる。僕はどうしたらいいんだ?
「あのさ、亜香里」
「なに?」
亜香里がこくんと小首をかしげる。あまりにも可愛くて、頭に一気に血が昇り、くらくらした。
「亜香里の好きな人って、もしかして僕?」
ああ、ついに言ってしまった。頭がくらくらして、正常な判断ができなくなってる。
亜香里の唇がゆっくりと開く。甘い吐息が漏れたように感じた。
「お兄ちゃん……」
僕はごくりと唾を飲む。
「なに言ってるの? そんなわけないじゃん」
「へっ?」
思わず間抜けな声が、僕の口から漏れてしまった。
「だって亜香里、例の赤い封筒の中に、『兄』って書いた紙を入れてただろ」
「違うよ、お兄ちゃん。あれは『あに』じゃなくて『けい』。高原兄君って男子の名前」
「へっ?」
「そもそもお兄ちゃんのことを『兄』なんて書かないでしょ」
「そう言うなら、男の子の名前一文字だけ書くか?」
「まあそれは、いつも『けい君』って呼んでるからね」
僕はとんだ勘違いに、顔がボッと熱くなる。亜香里は僕の顔をジトッとした目で見てる。
「お兄ちゃんって妹をそんな目で見てるの? シスコン? ちょっとキモい」 「いや待て。僕は元々お前をそんな目で見てないけど、おまじないの紙に自分が書かれてると思ったら、変に意識してしまうじゃないか!」
「お兄ちゃんも妹のことを覗き見する暇があったら、自分が好きな人が誰の名前を書いてるか、調べたら?」
うぐっと息を飲んでしまった。
その通りだ。ありすがそのまじないをしてるのか、してるなら誰の名前を書いたのか、ホントはそれが知りたいんだ。その通りなんだけど、一緒に住んでるわけでもなく、そう簡単に調べられるわけがない。
僕が言葉に詰まって固まってたら、亜香里が「ははぁん。お兄ちゃん、好きな人がいるな」と、にやりとした。
「あ、いや、それは……」
「じゃあさっき言ったみたいに、その子が誰の名前を書いたか調べなよ」
「もしその子がまじないをやってたとしても、他人が見れるような所に封筒を置いてるわけがないだろ」
亜香里は呆れた顔で「何言ってるの?」と言った。
「お兄ちゃんの好きな子が例のおまじないをもしやってるんなら、机の中とかに隠してるに決まってるじゃない」
「なんでわかるんだよ?」
「ああ、お兄ちゃん、知らないんだね」
「何を?」
きょとんとする僕に、今流行ってるまじないが、なぜ『相手に想いが伝わる』という効果があるのかを亜香里が説明してくれた。
それは超常現象でも何でもなく、好きな人の名前を書いたカードを入れた封筒を、覗き見される可能性がある場所に置くからなんだそうだ。
そしてそんなまじないが流行ってると聞いた男子の中で、積極的な者が封筒の中を覗き見る。
意中の相手本人が見ればもちろんのこと、本人じゃなくても見た者が『あの女の子が誰それの名前を書いてた』と話をすることで、結構な確率で本人に気持ちが伝わるのだと言う。
これはおまじないというより、いわば形を変えた告白みたいなものじゃないか。
「それなら普通に告白すりゃいいのに」
「告白したら、ダメなら振られるでしょ? でもこのやり方だったら、相手のリアクションが無くても、振られたのか、相手が封筒を見なかったのかがわからないから、傷つく度合いが少なくて済むんだよ。それにね……」
亜香里の説明によると、普通に告白されてもしその気がなかったら、相手の男子は当然断る。そうすると相手男子もそこで気持ちの区切りが付いて、告白を断ったという事実だけが残ってしまう。
しかしこのまじないだと、告白されているワケじゃないから男子は断ることはできない。
でもその男子は、自分を好きだと想っている女子の存在が気になる。
そうするとやがてその男子は、自分の名前を書いてくれた女子を好きになる可能性が高いという。
「そんなうまくいくもんか?」
「もちろん絶対にうまくいくってことはないけど、好きになってもらえる可能性は高くなるらしいよ。心理学で『好意の返報性の法則』といって、相手から好意を示されると好意を持ちやすいんだって。特に男子はそういう傾向が強いって」
「そうなんか?」
僕が訝しげな表情を浮かべて、なかなか亜香里の説明に納得しない態度でいると、亜香里は「お兄ちゃんだって、私の封筒を見て嬉しそうにしてたくせに」と、にやっと笑った。
「えっ? いや、あれは……」
僕は顔が熱くなって、うろたえてしまって、うまく否定できなかった。
「まあ、そういうこと。だから女子もこのおまじないをするなら、探し出せる所に赤い封筒を隠すってわけ。例えば机の中とか、個人ロッカーの中とか」
「ああ、なるほど」
「まあ赤い封筒そのままだとあからさまだから、他の封筒とか袋の中とか……あっ、例えばペンケースの中に入れてるかもね」
ありすもこのまじないをしてるのだろうか? 僕は明日にでも、それを確かめたくてうずうずした。
+++
翌日。放課後のホームルームのあと、僕は一旦教室の外に出て、しばらく時間を潰してから教室に戻った。もしも誰かいたら、忘れ物をしたってごまかそうと心の準備をしてたけど、幸い教室に残っている者は誰もいなかった。
ちゃんと扉を閉めて、ありすの机を目指して急いで近づく。
一歩ずつありすの机に近づくたびに、胸の鼓動がどんどん高まっていく。
ありすの気持ちを覗き見るという背徳感。
ありすが僕を好いてくれてほしいという期待感。
ありすが他の人を好きだったらどうしようかという焦燥感。
それらがごっちゃになって、僕の胸の奥がかき回されるように苦しい。
けれども、なぜか『封筒を探すのはやめておこう』という気持ちは起こらなかった。
何年もの間、想いを寄せている女の子。
その気持ちを知るチャンスは、今を逃したら二度とないかもしれないんだ。
ありすの机の横に立った僕は、腰を折って机の中を覗き見る。机の中には三冊のノートがあった。慎重にノートをすべて取り出す。そして改めて机の中を覗いたけど、もう何も残っていなかった。
赤い封筒はない。
やっぱりありすは、例のまじないはしていないのかと落胆した。
いや、決め付けるのはまだ早い。個人ロッカーの中も、可能性がある。
そう考えて、三冊のノートを再び机の中にしまおうとした時、ふと思いついてノートを一冊ずつ、ぱらぱらとめくってみた。
一冊目のノートには何も挟まれてなかった。
二冊目のノートには……
あった!
カードサイズの真っ赤な封筒。鮮やかな赤い色の封筒だ。それが雑記ノートの間に挟まれているのを見つけた。糊やテープはされていない。
やっぱりありすも、あのまじないをやってるんだ。
胸の鼓動が、どっくんと強く脈打った。
僕は震える手で、ゆっくりと赤い封筒を開ける。中には白いカード状の紙が入ってる。
僕の名前『斉藤憲次』の名前がそこにありますように……
そう祈りながら白いカードを指先でつまんで引き出す。
そこには──
そのカードには、赤いマジックで『斉藤憲次』という文字があった。
僕の名前だ!
ありすはまじないで、僕の名前を書いてくれていた。
何度も文字を見直したけど、『斉藤憲次』という僕の名前で間違いない。頭の中で、ウチの高校には他に同姓同名の人はいないよな、と思い返した。
もし同姓同名がいたら元々知ってるはずだし、実際にそんな人はいない。それがわかってるのに思わず頭の中で再確認するくらい、信じられない思いでいっぱいだ。
僕はカードや封筒を汚さないように慎重に元に戻して、ノートに挟んでありすの机の中に入れた。ノートが入っていた角度まで思い出しながら、元と同じようにする。
ありすは、やっぱり僕を想ってくれてた。ずっと前から、何年もの間、ずっと恋焦がれてたありすが、僕の名前をまじないに書いてくれた。僕は嬉しくて嬉しくて、にやにやが止まらない。学校を出て下校の最中ずっとそうだったから、行き交う人はさぞかし気持ち悪かっただろうと思う。
「ただいまー!」
帰宅して、玄関ドアを開けたら亜香里のスニーカーがある。あいつはもう帰ってるんだ。
亜香里に自分の気持ちを見透かされたのは悔しかったけど、でも亜香里のおかげでありすの机を調べることを思いついた。
ちょっと恥ずかしいけど、亜香里にお礼を言うべきか?
ありすとこれからもっと発展するためには、亜香里にアドバイスをもらえば役に立つかもしれない。いや、それよりも、亜香里に自慢してやろうか、あはは。
そんなことをぐるぐる考えながら居間に入ると、亜香里もさっき帰ってきたばかりだったようで、制服で鞄を肩にかけたまま、冷蔵庫の前でお茶をぐびぐびと飲んでいた。
亜香里は「ぷはーっ」と言ってコップのお茶を飲み干すと、僕を向いて「お帰り」と言った。 おいおい、お前はおっさんかよ。でもそんなことも、気分が良いから指摘せずに置いといてやろう。
僕が「ただいま」と返すと、僕の顔を見た亜香里が驚いた表情を浮かべた。
「おっ! お兄ちゃんのそのにやにやは、もしかしておまじないに自分の名前を見つけたのかな?」
うわっ、無表情を装ってたつもりだけど、一発で見破られた。
そのとおり! と自慢したいところだけど、いきなり見破られたのが悔しいし、ちょっと話をそらした。
「亜香里の方は、まじないの効果はあったのか?」
亜香里は手にしたコップをキッチンの上において、ふっと息をもらして苦笑いした。
「私はもう、あのおまじないはやめにした」
「えっ? なんで?」
もしかして、高原兄って男の子に振られたのか?
「今日友達に教えてもらったんだけどね。あのおまじない、オリジナルはちょっと違うんだって。それを誰かが、『好きな想いを伝える』って風にアレンジして流行らせたみたい」
元は違うまじないだったものをアレンジした?
どういうことだ?
「オリジナルは、殺してしまいたい相手の名前をカードに書いて、それを相手が見たら呪いが発動するっていうおまじないらしい」
げっ!
元はそんな恐ろしいまじないなんだ。
僕は背筋がぞわっとした。
「だから何となくいい気がしないし、やめにしたんだ。まあ呪いの方は相手の名前を赤い文字で書くけど、好きを伝えるのは黒い字で書くから、そこが違うらしいんだけどね」
「赤い文字?」
ふとありすが書いたカードの文字の色を思い出した。
急に心臓をぎゅうっと鷲づかみにされたような衝撃と痛みが胸に走り、意識が遠くなるのを感じる。
亜香里が「お兄ちゃん!」と叫ぶ声が遠くの方で聞こえた。
- 完 -
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