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時間なんて要りやしない
私が泥棒なんてはじめたのは、そう前のことではない。一年も経っていないだろう。
この泥棒を続けられているのは、己の欲求を満たすためではあるが、明確な犯罪行為でないというところも大きい。
万一露見したとしても、ちょっとした悪戯ということにしておくことができる。「困りますよ」の苦言だけで済んでしまうのだ。それでその店や場所にはもう二度と訪ねなければ問題にもならないというわけだ。
いっそ、本当の犯罪であったほうが良かったのかもしれないけれど。捕まって、時計のない部屋にぶちこまれたほうが心安らぐかもしれないではないか。
そう、私は時計から時間を盗むくらいには、時計というものを憎んでいる。
時計自体というよりも、時計の持つ『時間を進めていく』という役割を憎んでいる。
時間なんて要りやしない。今の私には、もう。
いつかこの世のすべての時計を止めてしまえたら。
なんて、叶わぬことが私の夢。
だからせめて、手の届く部分の時間を、表面上だけでも止め続ける。それになんの意味がないとわかっていても、空の心は時計を止める一瞬だけ満たされてくれるのだった。
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