デート

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土曜日の水族館はとても混んでいた。 雨だからっていうのもあるのかな。 「人多いな。」 入館してすぐに、人混みが嫌いな先生は苦手な顔をしている。 「まぁ、雨だし仕方ねえか。」 そう言って私の手を自然に握る。 少し不機嫌そうな先生をよそに、私は大きな水槽を目の前にして、興奮してしまう。 「すごいよ!大きい魚いっぱいいるよ!!」 「見て見て??すごい!エイだよ!!」 1人ではしゃぐ私。 あれ?こんな大きな水槽あったっけ? あ、そうか。 前来た時はこうやって水槽で泳ぐ魚を見る余裕が無かったんだ。 はしゃぐ私に、先生も少し呆れたような顔をしている。 「ったく、おまえ、小学生かよ。」 「だってー、前は水槽見る余裕無かったんだもん。こんな大きな水槽あったんだねー。」 「そーだな。お前、あの時、魚なんて見てなかったもんな。」 そう言って笑う先生。 先生と付き合ってすぐの初めてのデートで、舞い上がっていた記憶がある。 本当に余裕が無かったんだなぁと改めて思った。 「前来た時は、お前高2か。まぁ、浮かれてたよなぁ。」 「恥ずかしいよ」 「まぁ、今もそんなに変わらないけどな。」 「もぅ!」 少しは大人になった気がするんだけどなぁ。 先生からしたら、まだまだ子供だろうけど。 でも、前よりもずっと近くに先生を感じている。 こうやって手を繋いで、同じ目線で同じ気持ちでいられるんだ。 高2のあの頃の私には想像もつかなかった。 あの時は夢のような感覚だったから。 先生の気持ちを離したくない、その一心で。 懐かしいな。 卒業してからもこうやって一緒にいられるなんて考えもしなかった。 「小さい魚かわいいねぇ。」 熱帯魚の水槽を2人で眺める。 「こういうの育てるの趣味な奴いるよな。金かかって仕方ねぇやつだ。」 「そうなんだ。」 「マメじゃないと世話できねぇよ。俺には無理だな。」 そう隣で呟く先生を見てクスッと笑ってしまった。 水槽で泳ぐ綺麗な魚を見ながら会話をする。 前来た時は、こうやって同じ物を見て、言葉を交わすなんてしていない気がする。 初めてのデートで浮かれていた自分を思い出すと、本当に恥ずかしくなった。 何を話したのか、どんな話をしたのかなんて記憶にないくらい。 先生についていくので、精一杯だったなぁ。 立ち止まって、会話をして、ゆっくり手を繋いで歩く。 あの頃はできなかった。 手もつなげなかったもんなぁ。 懐かしいなとあの頃に戻った気持ちになる。 「あれ、ヒラメだって。」 「あー、うまいやつだ。食いてえな。」 先生の返答にクスクス笑みがこぼれた。 先生らしいなぁ。
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