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鳴り止まない電話。
ぶつぶつとなにごとかを呟きながらキーボードを叩き続ける同僚たち。
あちらこちらでこぼれるため息と罵声。
大至急と判の押された見積書の作成をしなければいけないのは重々わかっているけれど、鳴り止まない電話を取り続けているあいだに時間は刻一刻と進む。
やらないといけないのにやれない状況に、焦りが募る。
受話器を下ろした瞬間に鳴り出した内線は、当の見積もりを催促する電話だった。
「只今作成中ですので、完成次第すぐに送ります」
本当は、まだ一行も進んでいない。
これ以上放置はできない。
見積書にとりかかる。
電話が鳴っている。
鳴っている。
鳴っている。
誰もが忙しい。
電話対応中の声、猛スピードでキーボードを叩く音、なにごとかのトラブルが起きたのか、聞こえてくる怒声と謝罪。
鳴っている。
鳴っている。
誰もが忙しい。
誰もが出られない。
パーティションの向こう、隣の営業部の営業は、鳴り続ける電話の音が聞こえないように、パソコンのモニターを眺め続けて動かない。
「っお待たせ致しました」
電話に出る。
見積書は進まない。
時間は進んでゆく。
見積書は出来上がらない。
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