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ユーリが単身で敵軍に挑んで大立ち回りしているという部下からの報告に『ギルドナイト』の男は大きく溜め息をした。
「全く、あの女は……んで? 状況はどうなってる?」
「それが……その、どうぞ」
『双眼鏡』を受け取り、いったいどうなっているのやら、と男は戦場を見てみる。
敵軍に囲まれながら太刀を振り回しているユーリ。
発射されるバリスタの矢と砲弾を見つけると近くの敵を掴んで放り投げ、砲弾に当てて爆発。バリスタの矢は片っ端から掴み取って発射台に投げ返していた。
斬り伏せた敵を蹴飛ばしてそれに躓いたり、もろにぶつかった敵の顔面を殴り、気絶したのを見て武器のように太刀と一緒に振り回して。
間合いの中に入ってきた敵には拳撃を見舞ってやって上半身を地面に埋埋めて、蹴って砦の壁にめり込ませては引っこ抜いて地面に何度も叩きつけ、
『フ、フフ―――アッハハハハハハハ!! どうしたどうした、その程度か化け物。たった一人の女にどうして勝てない。どうしてそこまで無様になれる。私はまだ生きている、お前たちの敵として生きている、だから殺しにこい。そして倒してみせろ!! さあ、次はお前か、そこのお前か、それともお前か、誰でもいい全員でもいい。ほら、早くかかってこい。早く、早く、早く!!』
とまあ、見事な暴れん坊がそこにはいた。
「えー……」
なんというか、部下が何も言わず『双眼鏡』を渡すのもわかる気がする。言葉で言っても誰も信じないだろう。
「なんなんですかね、あの人は……」
「母は強し、なんだろうなぁ……もう鬱憤が溜まりまくってるから先ずはガス抜きをってところかねぇ」
「ガス抜きにしては派手で無茶苦茶ですが」
部下に『双眼鏡』を返して男はこちらの状況を確認する。
この規模の戦争はこれまでに無い。よって、いくら『ギルドナイト』とは言ってもあと三割ほどの者たちはまだ準備が出来ていない。
完全に終わるのを待っている間にユーリがピンチになる可能性は、まあ、ある……のかもしれない。少しは手助けして消耗させないようにしておきたい。
「殲滅班で用意が出来たやつから出撃しろ。あと兵器を使う際は、ユーリに当たらないように離れた位置にいる奴等を狙え。合図したら攻略班の掩護だ」
「了解です!!」
そう指示を出し、部下が駆け足でその場を去る。
「やれやれ……ほんとお前は人の話を聞かないな。お陰で予定通りにやれねえし、戦場のド真ん中まで迎えに行かなきゃならねえし、いい迷惑だぜ」
指示を聞いた他の『ギルドナイト』たちがそれぞれ出撃する。その横を、怒りの形相で歩み寄ってくるヴァルトと他の仲間たちを見ながら男はそう愚痴った。
「あれも俺が宥めなきゃいけねえってのがまた面倒だぜ」
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