第三章

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「いやー、ホント助かったぜ」 ユラユラと揺れ、風を頼りに海の上を進む一隻の船。その船内で作業着を着た大柄の男性に頭を下げられた。 「お陰で安心して採掘出来た、感謝する」 「あ、いえ、お礼なんていいですよ。こちらこそ報酬とは別に鉱石を幾つか頂きましたし……」 足元に置いたゴロゴロと沢山の鉱石が入った袋を見ながら言う。男性は炭鉱夫だ。この船には彼の部下が何人も乗船しており、今は『火山』での採掘を終えて帰路についた所だ。 聞けば、いつもは専属のハンターが護衛として同行していたのだが、前回の採掘中に炭鉱夫を庇ってモンスターの攻撃を受けて療養中らしい。 「最近はでかいモンスターも出てこないみたいなんだがやっぱ護衛が居ると居ないとでは違うなぁ」 「小型でも厄介なモンスターもいますからね。こちらとしては、私一人ですので数で押されないか不安でしたよ。余裕があるなら護衛を増やした方が良いと思います」 「どんなに強いハンターでも物量作戦には弱い、か。分かった、護衛の増員は親方に頼んでみるわ。アンタからの提案だと言えば親方も縦に頭を振るだろうしな」 「いや、私はそれほどの者では……」 「何を言う!!」 「ひゃ!?」 炭鉱夫にバシンと肩を叩かれた。 「アンタは今や有名なハンターだぞ!? 短期間で上位ランクのハンターとなって困難なクエストを次々と達成する四人の内の一人……『剛姫(ごうき)』のユーリ!! アンタらの活躍は『ドンドルマ』でも噂になっててなあ!!」 「は、はあ……」 その後も炭鉱夫から延々と尾鰭が付いた噂話を聞かせられるのだった。 だいたい一時間、その噂話に付き合わされたユーリは港に着くまでボーッと海を眺めていた。今回、仲間もアイルーも連れていない。 別に仲間とはいつも一緒という訳ではない。その日の気分や体調、それぞれの作りたい武器や防具に必要な素材はなにか、そういった所でパーティを組むか、一人でやるかを決めている。 そして今回の炭鉱夫たちの護衛だが、これはみんな他のクエストに出ていてユーリしか空いていなかっただけである。 「『剛姫』か……」 いつの間にそう呼ばれるようになったのだろうかと首を傾げる。自分からそう名乗ったとかではないし、仲間が面白半分でそう名付けた訳でもない。 確か一年半くらいで上位ハンターとしてランクを『4』まで上げ、更には半年で『5』になってその辺りからその二つ名で呼ばれるようになった気がする。 「『剛』はともかく、私に『姫』は合わないと思うんだけどなぁ……私よりもまだきゃみーの方が絶対合ってる」 『―――大剣を軽々と振るう男勝りな力と目を引く美しき姿からその名が定着したみたいでな。いやー、今日初めて会ったが噂通りの美人さんだな!!』 「私が美人……うーん、やっぱり私は自分をそういう風には思えないんだけどなぁ」 炭鉱夫に言われたのを思い出してまた首を傾げる。 「まあ、有名になったのならいいや。もっと上を目指さなきゃだけど、これで知りたい事が少しずつ分かってくるんだから……」 未だ見つからぬ仇敵。その存在の詳細な情報。『ギルド』に認められなくては知る事が出来ない『名持ち』のモンスター。 少しずつだが、確実に、それに近付けているのをユーリは実感して笑みを浮かべた。
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