18人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
娘ができる前、携帯を盗み見した週の土曜日。私は武のあとを尾行した。武は普段の服装となんら変わらない格好で出かけていった。浮気相手に会うときだけおしゃれをしていたら悔しいが、私と一緒にいる時と同じ格好で会っているのも気持ちが悪かった。
待ち合わせ時間になると武はポケットから携帯を取り出した。誰かと話をしているようだった。携帯に耳を当てたまま辺りを2、3度見回したので私は慌てて近くの自動販売機に隠れた。武は目線を一点に定めると会釈をした。私はその目線の先を追い、凍りついた。若い女にうつつを抜かしているとばかり思っていたがそうではなかった。武が待ち合わせしていたのは、どう見ても還暦を超えていそうな女性だった。小柄の割に腹回りはしっかりしていて、パーマをあてた茶色い髪をハーフアップにしてバレッタで留めていた。
もし浮気相手が若い女で、武との間にすぐに子どもができたらと不安だったが、それは杞憂だった。2人は顔を合わせると街中へ消えていった。
私は自動販売機に身を隠したまま、その場にへたり込んだ。子どもができない事へのストレスから浮気に走ったとばかり思っていたが、もしかしたら妊娠云々ではなく私自身にもう武は飽きてしまったのかもしれない。
浮気相手があんな年上だなんて。
私の存在全てを否定されたような気持ちになった。
最初のコメントを投稿しよう!