第1話 出会い

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第1話 出会い

新しい制服を身に着けて『新しい学校』へと入って行く。保護者同伴の小学校1年生 の僕は怯えた様子で廊下を歩く。 体育館には、全校生徒600人の生徒が密集して並んでいる。その舞台の裏手には、打ち合わせをしている教頭先生と怯える僕だけがいて、舞台の教壇には校長先生が堂々たるお姿でお話しされている。 「——と言ってね。わかった?」 「わかりました」 この頃の僕は同世代で人一倍、他人に対して律儀に対応していた。なんとか他人に迷惑をかけないようにしなければならないという義務を感じて、いわゆる「背伸び」をしていた。「背伸び」をしないといけないと思ったのは....... 僕は校長先生の誘導のもと登壇した。目の前に見えるものは、大きく重そうな教壇の上にある演説用のマイクと600人以上の人々。 大量の人の視線に緊張しながら焦ってさっき教頭先生から指示されたことを思い出す。 僕はマイクに向かってボソッと、 「はじめまして、みの けんたろう です。Cがっこうから てんこう しました。よろしくおねがいします...」 五年前の記憶が今なお鮮明に思い出せる。あの時は、新しい学校に完全にビビっていたなー。 今日で小学校6年生になった僕は学校の正門を見ながら、ふと昔の記憶を蘇らせた。 あの時の出来事は僕にとって準黒歴史な案件だった。 完全に挙動不審な様子で何言ってるかわからないレベルの日本語を話されたら、しばしばの人は「この子、障害なの?」と疑われると思う。 まあ今は、あーそんな事があったなー、って流せるけど。 今日は始業式。最高学年になるという緊張感、小学校で学べるのもあと1年という寂しさと...これが一番楽しみ。最後のクラス替え! 4階建2棟の小学校、5年から6年生になったということで、フロアも3階から4階となった。 ...うん...正直、毎日4階まで行くのはいやだな... 4階の階段を登りきって少し廊下を歩いた場所に6年生のクラス表が貼ってあった。 好きな人と一緒かなー?うーん、2年連続は無理かな... 、と思いつつ実はなんとなくクラスが一緒になる自信があった。最後は必ず神様は僕に味方してくれると。 案の定、出席番号がとなりで一緒のクラスだった。 安定の出席番号32番、4年間変わってない。 出席番号順の着席で、僕は一番右端で前から2番目に座る。 僕が着席してまもなく、松井 美優(まつい みゆう)が教室に入ってきた。出席番号31番、僕の好きな人だ。 それから約10分後、6-1の生徒が全員揃い始業式をする前のクラスホームルームが始まった。 『俺』は教室の後ろ端から、半真面目に先生の話を聴く『僕』をうつろな様子で眺めていた。 自分の記憶を行き来する『俺』は、「過去を捨てた」はずなのに過去に執着するよく分からない人だ。 でもね...やっぱり「最後に」確認したかったんだよ...どうせ何もかも消えてなくなるんだから。もう終わりなんだから... 楽しい記憶、辛い記憶をもう一度体験して懐かしむ。僕は、普通の人ならもう二度と体験できない「記憶」をもう一度同じ気持ちで体験できる権利を獲得したのだ。 獲得した経緯については全く記憶にないけれどね。
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