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「あら。皓介(こうすけ)先生。今日はデートですか。どっかのサラリーマンみたい」 「え?ああ。……まあ」  この医院で一番年長の歯科衛生士に言われて、俺は苦笑いを返した。  普段は市内にある自宅との往復だから私服も適当だが、今日はカラーシャツにスラックスと見かけはクールビズの勤め人だ。 「遊ぶのもいいけど、いい歳なんだから早く身固めて(おお)先生に孫見せてあげないと」 「33って、いい歳ですかねえ……」 「え?」 「いえ、なんでも。それじゃ、お先に失礼します」  2駅電車に揺られて降りた改札横の柱に、待ち合わせの相手は疲れた顔でもたれかかっていた。  けだるそうに髪を掻き上げながらスマホをいじっている横顔を見ていると、視線に気づいて顔を上げた。 「来たなら声かけてよ」 「……ごめん」  本名は知らない。  彼女について知っているのは、類という呼び名と、28という年齢と、――――歯医者が大嫌いということ。
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