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裏庭のボケ
我が家の裏庭にはボケの木がある。
たった1本、ひとりぼっちのボケの木だ。
「平凡」
そんな言葉がお似合いで物干し竿の後ろにひっそりと佇んでいる我が家のボケ。
その昔、離れて暮らす祖母が植えたらしい我が家のボケ。
手入れもされず、名前も忘れられて「バカ」「アホ」などと呼ばれることもある我が家のボケ。
それくらい目立たなかったボケの木だが、今年は少し様子が違った。
それは4月に入る前後のことだった。
裏庭に見慣れない赤色があって、よく見てみるとそれはボケの花だった。
例年にはない満開具合で、私はとても驚いた。
そして同時に疑問に思った。
はて、いつの間にこんなにたくさん咲いたのだろうか。
情けなくも咲いていたことに全く気付かなかったのだが、枝という枝にたくさんの赤が付くその様は緑以外の色がない我が家の裏庭にとてもよく映えた。
「先駆者」
それは春を呼び込む花。
息を呑むような赤はまさに、春の訪れを告げるファンファーレ。
ここから春が始まるのだ!
雨上がりのその日に、私は夢中になってカメラのシャッターを切った。
丸い花びらで囲われた中に雨水が溜まり、それが太陽の光で煌めく。
これぞまさしく、
「妖精の輝き」
あぁこんなに綺麗な花があったのか。
それもこんな身近な所に。
「退屈」
そして色のなかった毎日に一時の色を添えてくれたこの花に、私は感謝したのだった。
‥‥
余談だが、6月に入った頃、ボケの花が1つだけ咲いた。
満開にもなって、もう今年は咲かないだろうと思っていた矢先のことだった。
最初は名前の通りボケて咲いたのだろうと微笑ましく思っていたが、見ているうちに別の想いが湧き出てきた。
目立たない裏庭で、ひとりぼっちの木にひとりぼっちの花が咲くその姿。
まるで赤い服を着た愛らしい妖精が枝に腰掛けているようにも見えて。
「魅惑的な恋」
どうやら、私の頭もボケてしまったらしい。
✱ボケ(木瓜):バラ科ボケ属
花言葉
平凡、先駆者、退屈、妖精の輝き、魅惑的な恋
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