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進路希望の用紙。無難な大学、無難な学部を選び、安定した将来を約束された、ごく普通の未来を書いた。両親は喜び、担任は眉根を下げて仕方なさそうに目を伏せた。
そしてそれを提出した瞬間、自分が一切合切消え去ってしまった気がした。でもこれが一番無難な道だということを、俺はよく分かっていた。
金に困らない職につき、両親を安心させ、いつかは結婚して家族を持ち家庭を守る。そんな当たり前の、所謂幸せを選んだはずだった。
はずだったのに。
帰宅した俺は何もかも、呼吸の仕方までもが分からなくなってしまい、そのまま倒れるように意識を飛ばしたんだ。
やっと思い出した。
バクバクと、心臓がやっと動くことを思い出したかのように脈打ち出した。
「ここにいたら、あのかみにかいたとおりになるよ」
「?! お前……なんでそれを?」
少年は愚鈍な俺に飽き飽きするかのように、何も答えず千切った草を足元に投げつけてきた。
しかし、突然現れた少年が俺の身の上を知っていたってなんらおかしくない。感触がいくらリアルだったとしても、ここは人間が傘を使って飛んで行ってしまうような何でもアリの空想の世界なんだから。
「もしそうだったとしたら、俺はずっとここにいるよ。あんな悪天候の中飛んでいくなんて馬鹿らしい。俺は安定がほしい」
両目を膝小僧に擦り付けた。少年の目は見れなかった。きっと、あのビー玉のような目で腐った俺を写し、そして悪びれもせず落胆するんだろう。
「そっか、じゃあもうぼくはいらないね。もういくよ」
え?
と、呟いた時には少年はもう崖の一歩手前にいた。すっと両手を広げている。
駄目だこいつ、飛び降りる気だ。
そう思った時にはここが空想の世界だと言うことも忘れて、少年の元へ飛び出していた。
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