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薄化粧の希子が、数年振りにその唇に赤い紅を差す姿を、僕は鏡越しにじっと見つめた。
「……何よ、淳平。また似合ってないって言いたいの?」
僕の視線に気づいた彼女が、困ったような笑みを浮かべて振り返る。
「いや……似合ってる。」
「私に赤は似合わないんじゃなかったっけ?」
「僕のための赤なら大歓迎」
「それは随分と自分勝手ね!」
そう言ってクスクスと笑う希子。
自分勝手で結構。
男なんてものは、大概勝手で単純な生き物なんだ。
現にほら、
僕の腕にそっと寄り添った彼女の唇の赤は、
こんなにも――――
「綺麗だ」
紋付き袴姿の僕の隣で、
白無垢に身を包んだ希子が、ふわりと微笑んだ。
Fin
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