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第二宵【兵士ルート】
感じる人間は強く、疑う人間は弱い。
偉大な行動は強い信念から始まる。
ジェームズ・フリーマン・クラーク
第二宵【兵士ルート】
俺は、かれこれ10年くらい、この城に仕えている兵士で、ソルマージュという。
ここの王は、はっきりいって最低だ。
私利私欲しか考えていないし、兵士たちのことさえも、使い棄ての出来る駒くらいにしか思っていない。
そんな最低の王が、今日は何やら大事な話があるということで、広場に人々を集めてスピートをするなんて言いだした。
好かれてもいない王だが、命令に背くことも出来ず、出来るだけ多くの人を集めようと、前前からお願いをしていた。
兵士として、一応、王を守らないといけないし、その息子も。
スピーチまでの間、俺達兵士は手わけをして見廻りを続け、不審な物はないか、不審な人物はいないかを探す。
面倒臭いが、やらねばならない。
罪人、というにはそれほど罪人ではないが、王が捕えろと言ったから捕えた者たちがいる牢屋へと顔を出した。
特になにも変わりはない。
みな死人のような顔をしているし、ここから逃げようなどとも考えていないと思う。
1人だけ、たまにぎらっとした目で見てくる男がいるが、好きにやってくれればいいと思っていた。
牢屋から階段をあがって上へ向かい、また見廻りを始める。
王の命令で、少しだけならと、一般人が城の中へ入れるようになっていた。
もちろん、厳重なボディーチェックはあるものの、城に入りたがるような人望も王にはないため、それほど人はいない。
もし人望があった時期があるとするならばそれは、今は亡きフライア様がいた頃だろうか。
誰に対しても優しかったフライア様は、王の正妻として城に来た方だ。
俺がここに来て3年後に亡くなったのだから、もう亡くなって7年以上が経っている。
正妻として来たのが17年以上前だから、7年ほどで亡くなってしまったことになるのだが、なぜ亡くなったのかは、俺達兵士にも聞かされていない。
ただ覚えているのは、その時から王は、人の命よりも金を大事にしていたことだ。
フライア様のことを知っている人は、皆口を揃えてこう言うのだ。
「なぜあんな男に嫁いでしまったのか」
フライア様が金や権力で男を選ぶような方ではないと知っているから余計に、それが謎のようだ。
とはいえ、俺はただの一兵士にすぎないため、あまり首を突っ込まないようにしている。
それでも世間というのは噂が好きで、実は王に殺されたのではないかとか、本当は妾がいて、その妾に殺されたのでは、といったように。
巷での噂など王たちの耳には入っていないだろうが、念のため、兵士たちには余計なことを話さないようにと伝えてある。
うろうろと、広い城を歩いている兵士たちを眺め、俺はため息を吐く。
いつも通りの兵士たちが巡回している姿は、もう見飽きた。
「ん?」
ふと、部屋の中から物音がしたため、念の為入ってみる。
すると、そこには兵士が何かごそごそとやっていて、声をかけると驚いたようにビクッと肩を揺らしていた。
「こんなところで何をしてる?」
「す、すみません。この辺に眼鏡を落としてしまって、探していたんです」
「そうか。一緒に探してやろう」
「いえいえ!!滅相もありません!自分1人で見つけてみせます!!お手を煩わせるわけにはいきませんので!!」
「・・・そうか?じゃあ、俺は行くぞ。見つかるといいな」
「はい!」
こんな大事なときに眼鏡を落とすなんて、しかもあんな暗くしていたら見つけにくいだろうにと思ったが、まあいいかと思った。
王も面倒なことをしてくれたものだ。
そんな文句を言っても、どうにもならないことも知っている。
だから、もう諦めて働くしかない。
巡回を続けながらそんなことを思っていると、無線が入る。
【ソルマージュ!不審な物を見つけた!大広間まで来てくれ!】
「わかった。すぐに向かう」
兵士から連絡が来て、言われた通りに大広間に行ってみると、そこにある大きな壺の中に、明らかに爆弾を思われるものがあった。
【ソルマージュ!浴室でも見つけた】
【寝室にもあったぞ】
次々に爆発物発見の知らせが舞い込んできて、俺はとにかく、全ての爆発物を回収するよう指示をした。
幾つあるかも分からないが、スピーチまでの限られた時間で、なんとか見つけるしかなかった。
最上階から地下まで、徹底的に調べさせた。
見つけた爆発物には時限装置と思われるのがついていたため、特化しか者にそれを取ってもらい、爆発しないようにした。
こう言う時、どうして無駄に広い城にしたのかと恨みたくもなる。
俺は一応、牢屋付近にも設置されていないかを確認するように指示を出した。
そしてそこには何もないと連絡が来て、怪しい人物も見ていないと、兵士たちは全員答えた。
一体誰が、いや、そんなことは今はどうでもよい。
これで、王たちが狙われていることは分かったのだから、警護を強化する必要があると、みなに無線で伝えた。
「おい、返事をしろ。どうした?」
【・・・・・・】
ある1人の兵士からの返事がなかった。
何かあったのかと何度も呼んでみると、そのうち、ざざ、と聞こえてきて、そこから兵士が返事をした。
「おい、何かあったのか」
【いえ、特には】
「ならすぐに返事をしろ。遅いぞ」
【すみません。気をつけます】
「お前はすぐに王のところへ行って、傍で警護をしてくれ」
【わかりました】
最近の兵士たちは少し甘い。
王の命を守るということを甘くみているというか、その大事さに気付いていないというか。
まったくしょうがない奴等だと思いながらも、そろそろ始めるスピーチのため、俺も警護につかなくてはと、足を進める。
早足で歩いていると、そこにあった部屋から人影が出てきて、ぶつかった。
「何をしてる」
「す、すみません」
「いいからお前も来い。これからスピーチが始まる。警護につくぞ」
「え!?で、でも・・・」
「でもじゃない。付いてこい」
何やら言いたそうなそいつを強制的に連れて行き、いよいよ王が壇上にあがる時がきた。
『では、これよりゾンネ国王による、スピーチとなります。みなさま、盛大な拍手を!!』
パチパチと、お世辞のような拍手が鳴り始まると、王は壇上にあがって手を振る。
それに応える国民はいないとしても、王はさほど気にしていないだろう。
『えー、本日はお日柄もよく』
ただでさえつまらない話しなんだから、さっさと話せと思っている人がほとんどだろうが、決して言わない。
はあ、とため息を吐いた瞬間、いきなり、大きな物音がした。
それは明らかに爆発で、広場にいた人たちはみなわーわーと騒ぎながら逃げ惑ったり、その驚きながらも興味本意に眺めていたり、とにかく、様々な反応があった。
俺は急いで王のもとへと向かった。
「お怪我はありませんか」
「一体何事だ!!」
「申し訳ありませんが、一時避難していただきます」
王を連れて数人の兵士たちと共に、王の部屋まで連れて行った。
その間も、王は何やら文句を言っていたようだが、そんなもの毎回ちゃんと耳に入れているとおかしくなるため、上手に聞き流すのがポイントだ。
まだ爆発物が残っていたらしいが、それでも、これ以上の被害が出ていないことを良しとするしかない。
「ここは頼んだ」
「ソルマージュ、どこへ」
「あの場所はきっと牢屋だ。囚人たちが逃げていないか確認に向かう。先に数人向かわせておいたから、大丈夫とは思うが」
瞬時に場所を把握していたため、俺は近くにいた兵士たちに声をかけていた。
牢屋に向かって歩いている途中、向こうから1人の兵士が歩いてきた。
その男に向かって歩いて行くと、なぜだか怯えたような顔をされたように思うが、気にしないでおこう。
「囚人たちはどうだ!?まさか、逃げてはいないだろうな!?」
囚人とはいっても、囚人ではないが。
「だ、大丈夫ですー。ちゃんと、全員、捕まえましたー・・・」
「そうか、よかった。私はリヒト様を探しに行く。お前も見張りを怠るな」
「はーい」
あんな兵士いたかな、とは思ったが、牢屋の方が大丈夫ならば、俺は王の息子でもあるリヒト様を探すのが先決だと思った。
色んな場所を探してはみたが、リヒト様はなかなか見つからなくて、それでも思い付く場所は探しまわった。
「・・・あそこか」
俺は、思い当たった場所に向かった。
それは、昔から隠れ家だとか、秘密基地だとか、リヒト様が言っていた場所。
王は気付いていないかもしれないが、リヒト様がこっそりと作った小さな部屋。
「リヒト様?」
そこに入ると、やっぱりいた。
しかも、兵士も1人、一緒にいた。
「やはりここにいらしたんですね。探しましたよ」
リヒト様は悪びれた様子もなく、ニッと笑った。
まったく、俺がどれだけ城の中を探しまわったと思っているのか知らないだろうが、とにかく疲れてしまった。
だが、どうしてその兵士も一緒にいるのかが分からなかった。
リヒト様は、確かに何かあるとここへ来ていたのだが、それは必ず1人でだ。
こうして、誰かを連れて来たことはないはずだ。
俺の表情からそんなことを考えていると気付いたのか、リヒト様はケラケラと笑いながら話してくれた。
事情は分かったものの、王と一緒にいないと、色々と不便がある。
「リヒト様、戻りましょう。今日のスピーチは中止になるでしょうから、大人しく部屋にいてください」
しかし、嫌だと言われてしまった。
「ソルマージュ、頼みがあるんだけど」
「なんでしょう」
そう言うと、リヒト様はまた笑って、俺に面倒なことを頼んできた。
しかしそれを断ることも出来ず、やれやれと、言われたことを実行に移すべく、そこから離れた。
俺は一旦王の元へ戻る。
王は自分のスピーチを邪魔されたことにとてもご立腹で、犯人を見つけて八つ裂きにしてやるなんて言っていた。
周りの忠実な兵士たちでさえ、引いてしまうほどの圧力だ。
そんな中、俺は王に近づいて行き、口を開いた。
「本日のスピーチですが、お続けになってはいかがでしょうか」
「なんだと!?ワシに、死ねというのか!」
「いえ、そのようなことは決して。ただ、あのようなことで、わざわざ中止にするというのも癪かと思いまして」
「確かに癪だが」
「こんなことにも屈しない、強いゾンネ様だからこそ、スピーチを続けられるのだと印象づけることが重要かと」
「・・・・・・」
王は唇をこれでもかというくらいに前に突き出していた。
これは、頷きたいが、プライドが邪魔をして素直にOKを出せないときの、この人の癖である。
それを知っているからこそ、俺はもう一押しだと分かる。
「私も、是非ともゾンネ様のスピーチが聞きたいのです。みなも、そう思っています。ソルマージュ、一生に一度の御頼みでございます」
「・・・そうか。お前がそこまで言うのなら、仕方がない。しかし、先程のようなことがあっては困るぞ」
「分かっております。厳重に警備をし、必ずや、お守りいたします」
「ふむ。なら良い」
「では、スピーチ再開は30分後、ということでいかがでしょう」
「あいわかった」
俺は王に一礼と、これでもかというくらいの感謝を述べると、部屋にいた兵士たちに、時間になったら王を壇上へ連れてくるようにと伝えた。
俺も壇上へ向かうことを告げて。
30分が過ぎ、俺は壇上へ向かう。
兵士たちとともにやってきた王に、壇上へ向かうように誘導すると、また同じように歓声を浴びることが出来て、王は少し満足そうだ。
その後にリヒト様もやってきたのも確認した。
スピーチが再開されると、俺はその場を他の兵士たちに任せて、城内を見廻ってくると言って離れた。
そのまま一直線に向かった先は、少し暗くて寒い、そんな場所だ。
ここには、他の兵士たちよりは頻繁に来る。
そしてそこにいる男たちに声をかけると、男たちは俺を見て近づいてくる。
「ああ、ソルマージュか」
「俺以外いないだろ」
「さっきも、新しい兵士が来たんですよ」
「新しい兵士?」
何のことかと辺りを見渡すと、そこには物影に隠れている誰かの影が見えた。
誰か潜りこんだのだろうかと、一瞬、捕まえようかとも考えたのだが、今は見逃すことにした。
それにしても、隠れるにしてももう少し上手く隠れた方が良いだろう。
「それより、これから作戦を実行する。ここから出るんだ」
「では、いよいよ・・・!!」
「ああ。覚られぬよう、動くんだぞ」
鍵などかかっていないその場所から男たちが出ると、俺は歩きだした。
まるでハーメルンの笛吹きのように、俺の後ろには綺麗に並んだ男たちが続く。
俺はその男たちにシャワーを浴びさせ、着ていた服も汚れていたため、新しいものを用意して着るように言った。
男たちの準備が終わると、俺は壇上へと向かい、男たちにもその回りに付くように指示を出した。
そして王が息子であるリヒト様に王座をあけわたすと言って、王冠をリヒト様に被せ、王よりも前に出たとき、俺達は動き出そうとした時、それよりも先に、兵士の1人が王を後ろから捕えた。
俺は思わず腰にある剣に手を添えるが、添えた手をすぐに下ろした。
「お前、一体何を!?赦さんぞ!!一生、飼殺しにしてやるからな!!」
「この世にいる価値のない奴だな。ここで俺が殺してやってもいいんだ」
「なんだと・・・!?」
「俺の家族を殺しておいて、よく平然と生きていられるものだな!!」
「ふざけるな!!ワシを誰だと思っている!?こいつを捕えろ!!絶対に赦さん!!」
小鳥のようにピーチクパーチク騒いでいる王の前に、リヒト様が立つ。
「息子よ!!ワシを助けておくれ!!この恩知らずを殺せ!!」
リヒト様は王の、いや、元王の耳に顔を近づけたかと思うと、何かを囁いていた。
一体何を言ったのかは分からないが、とにかく、王は愕然としたような表情になり、その場にへたり込んでしまった。
王を捕まえていた男は、そんな王に、未だ睨みつけるような目つきを送っていた。
何があったのかは知らないが、元王は王座を明け渡した途端、権力も地位も何もない、ただの1人の人間となってしまったらしい。
魂の抜けたような王を見て、王を慕っていた忠実な兵士たちは、次々にその場にうずくまってしまい、俺が連れて来た兵士によって連れて行かれた。
騒ぎが一旦収まったかと思いリヒト様に近づくと、リヒト様は楽しそうに笑っていた。
世話の焼ける人だと思っていると、急に、どこからか爆発音が聞こえて来た。
まさか、まだ爆発物の残りがあったのか、なぜ今頃になって爆発するのかと不思議には思ったが、とにかく、顔をそちらに向ける。
もくもくと黒い煙が立ち込め、俺はすぐにリヒト様に避難してもらおうとしたが、リヒト様は平然とそこにい続けた。
人の言う事を聞かない人だと口を開けた時、リヒト様が「あ」と言ってどこかを指さしたため、つられて見た。
すると、そこからはキラキラと輝くものが踊るように舞っていて、瞬時にそれが何かわかった前王は、とても大騒ぎしていた。
太陽の光に照らされて美しく輝きを魅せるソレらが宝石類であることが分かると、広場にいた、スピーチを聞きに来ていた者たちはみな、一斉に宝石を手に収めようと踊り狂っていた。
我先にと、他人を押しのけて群がるその姿は、あまりにもみっともないものだったが、隣にいたリヒト様はお腹を抱えて大笑いをしながら、「宝石の雨だ」なんて、呑気なことを言っていた。
広場に落ちて行く宝石たちを見て、それに固執しないこの人は、本当に自由な人だ。
ふと、広場の木陰になっているところに目をやると、そこには汚れた服を来た兵士が立っていた。
どうしてあんなに汚れているのか、それにどうしてあんな場所にいるのか、疑問に思ってじーっと見ていたら、その兵士もこちらに気付いたようで、こちらを見てきた。
ほんの少しだけ、互いに互いの動きを窺っていたが、先に動いたのは向こうだった。
ゆっくりと顔を背けてこちらに背中を向けたとき、薄らと笑っていたようにも見えたが、気のせいだろうか。
「ん?」
その兵士の後ろから、別の兵士が小走りに走って行くのが見えたと思ったら、汚れた服の兵士とぶつかっていた。
互いに何も言った様子はなかったが、後から来た兵士の腰に、小さな袋があったように見えた。
それにしても、どうして兵士たちがあそこで巡回をしているのかと思い、近くにいた兵士に、広場にも兵士たちを行かせたのかと聞いたところ、そんな指示は受けていないから誰もいっていないはず、とのことだった。
一体、あいつらが誰で、なぜあんな格好をしていたのか、それは今となってはもう何も分からないが、俺は隣で希望を夢見る1人の男のために、これからを捧げようと誓うのだ。
その後、王の部屋に向かったリヒト様は、そこに飾られていた元王の肖像画を見て、再び、お腹を抱えて笑う事になるとは、思ってもいなかった。
「ソルマージュ、これ見てくれ」
「どうした?」
「捕まえてるはずの囚人の数なんだけど、何回数えても、1人足りないんだ。記入ミスだと思うか?」
「・・・まさかな」
「どうした?」
「いや・・・。記入ミスだろう。修正しておいてくれ」
「わかりました」
「・・・やってくれたな」
これが、俺の経験した物語だ。
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