0人が本棚に入れています
本棚に追加
第三宵【復讐ルート】
あなたがこの世で見たいと願う変化に、あなた自身がなりなさい。
マハトマ・ガンジー
第三宵【復讐ルート】
俺はルタ、これから、この国の王を殺そうとしている。
小さい頃からこの国にいる俺は、この国以外の世界なんて知らなかった。
だが、この国はおかしいんだと気付いた。
両親は無実の罪で捕まり、妹は他国へと売られてしまった。
生きているのか死んでいるのか、俺には確認する術さえない。
国王は本当にクソみたいな野郎だ。
自分さえ良ければいい、自分さえ幸せならいい、自分さえ贅沢が出来ればいい、自分さえ自分さえ自分さえ・・・。
そんな国王には付いて行きたくはないが、文句を言おうものなら、女子供とて捕まってしまう、無情な国だ。
信じ難いかもしれないが、俺は虎視眈眈と今日という日を心待ちにしていた。
なぜなら、今日は馬鹿な国王が、自らの命日をなるためのステージを用意したからだ。
城に仕えている兵士たちが来て、国王のために広場に集まってほしいと言われ、俺はこの計画を立てた。
国王なんているからいけないんだ。
そいつを殺してしまえば、俺達はきっと幸せになれるんだと、ただそれだけを信じて今日までずっとひたすら生きてきた。
特殊なルートで爆弾を手に入れた俺は、それを持って城へと近づく。
いつもなら、こんな汚れた格好で城に近づけば、すぐにでも捕まって牢屋行きなんだろうが、今日は違う。
何がしたいんだかまったく分からないが、国王は俺達国民に自分の生活を見せびらかしたいらしく、城の門は開いていた。
とはいえ、厳重なボディチェックがあるため、正面から堂々と入ることは叶わない。
だが、一度中に入ってしまえば、こちらのものだ。
俺は兵士たちの動きを良く見て、いつか手薄になるだろうと思っていたのだが、思っていた以上に厳重で、なかなか門の兵士たちは手薄にはならない。
ここで諦めるわけにはいかないと、思い切って足を進めて行く。
例えここで捕まってしまったとしても、手に持っている爆弾を使って脅すことも出来るし、死ぬ覚悟で爆発させることだって。
実際には、こんなところで死ぬわけにはいかないのだが。
ずんずんと歩き進んで行ったとき、兵士たちの見張りの交代の時間がきたらしく、俺はその時を見逃さなかった。
門に背中をむけていた兵士たちの横を、身体を丸めて目立たないように抜けると、簡単に城内に入ることが出来た。
だが、ここで安心するのはまだ早い。
これからこの爆弾をあちこちに仕掛けて、スピーチの時に一斉に爆発させてやるのだ。
兵士たちに見つかったとしても、今日は大丈夫。
見学者か、くらいに思っている馬鹿な兵士たちが俺のことなんかボディチェックを受けた安全な市民だと思って素通りしていく。
さて、これからが本番だ。
俺はまず、大広間に入ったのだが、あまりに広くてどこに仕掛ければ良いのか、少し迷ってしまった。
しかし、近くに大きな壺があり、何の役に立つものかは興味もないが、そこを覗いてみると中は見えにくくなっていたため、そこに1つ入れた。
折角だからと、大広間にはもう一つ仕掛けることにした。
それは、その場所に堂々とある、天井のシャンデリアだ。
広間にあった椅子に上ってみたが届かなかったため、諦めようとしたのだが、壁にあるスイッチを適当に押してみたところ、シャンデリアがゆっくりと降りて来た。
爆弾を上に置いてから再び上げて、元に戻した。
広間を出ると、トイレとか誰の部屋かは知らないが寝室とか、キッチンに物置き、なんていう名前がついているか分からない部屋にもそれを仕掛けた。
途中、誰かに見られていたような気もしたが、きっと気のせいだ。
国王の部屋にも入って、そこにも置いた。
自分でも何処に仕掛けたか分からないくらいに仕掛け終えるが、爆弾はまだ残っていたため、あと何処か仕掛けるところは無いかを探していた。
「地下?」
ふと、城には似つかわしい古びた階段があって、俺はそこを下りて行く。
何か恐ろしい動物でも飼っていそうな、ぶるっと震える空気が漂っていたが、そんなことは無いだろうと、足を進める。
良い運動にもなるなと思っていたが、そこに見えた人影に、少しだけ身体が固まる。
そこには、まるで罪人のような、というより罪人なのだろう、男たちが牢屋の中で蠢いていた。
多分寝ているんだろうと思って、俺は気にせずに爆弾を隠せる場所を探していた。
良い場所を見つけて、俺はそこに残りの爆弾を仕掛けていた。
だから、急に声をかけられて、本当に心臓が止まるかと思った。
「おいあんた、何してんだ?」
兵士かと思ったら、罪人の男だった。
こちらをじーっと見て、慣れ慣れしく話しかけてきた。
「・・・・・・」
「おいってば。何か言えよ」
しつこいその男に、俺は思わず声を発してしまった。
「黙ってろ。お前には関係ない」
「関係ないって・・・。そりゃねぇよ」
確かに、この爆弾が爆発すれば、この男だってどうなるか分からない。
だが、今の俺には他人を気遣っている余裕なんてないから、男のことなんて無視して、そのままそこから離れることにした。
「さて、あとは」
あと必要だったのは、国王がスピーチをしている間の兵士の配置図だった。
どこにどれくらいの人数の兵士たちがいるのかを知っておけば、国王に手をかけた後、どこから逃げるかも考えられる。
いや、最悪捕まったとしても、国王が俺にしたことを教えてやれば、俺以外にも立ち上がろうとする戦士たちが現れるかもしれない。
周りの大人たちは頼りにならない。
みんな自分のことが大事だから、国王のことを恨んでいても、決して、俺の様な行動には移さない。
あいつらは俺のことを馬鹿だと思ってるかもしれないが、俺からみれば、あいつらの方がよっぽど馬鹿に見える。
なんであんな国王のために、俺達が苦しまないといけないんだ。
それに、この城で国王に仕えている奴等も奴等だと思う。
俺なら絶対に、大金を積まれてもあんな奴の下でなんて働きたくないし、働いていたとしたらそれは、命を奪う為だ。
最初は、両親が生きているかもしれないと思って期待していたが、つい先日、死亡したとの通知が届いた。
わざわざそんなもの届けてこなくても良いから、頭を下げて謝ってほしかった。
希望が無くなった今、俺に出来ることは、国王を消すことだけ。
俺はそんな考えを巡らせながら歩いていると、なにやら兵士たちが慌ただしく成り始めた。
そんな中、1人だけ、他の兵士たちと離れて行動している馬鹿な兵士がいた。
なぜだかおどおどしているようにも見えるその兵士に近づいて、すれ違って、数歩進んだところで俺は足を止めた。
そしてゆっくりと振り返ってみると、そいつは俺に背中を向けたまま、歩いていたから、これは使えると思った。
俺はその兵士に近づいて、後ろから首を軽く圧迫しながら、聞くことにした。
「おい、今日のスピーチの時のお前ら兵士の配置図か何か知らないか」
「ぐえっ!!!は、配置図!?こ、これのこと・・・!?」
「・・・これか」
兵士は苦しかったのか、素直に持っていた配置図を俺に渡してきた。
だが、俺はそのまま解放してやるつもりなんかなくて、その兵士の首をさらに強く圧迫して、気絶させた。
ちゃんと呼吸をしていることを確認すると、その兵士を引きずって、どこかに部屋じゃトイレは無いかと探した。
一番近くにあったのがトイレだったため、そこのトイレに押し込む。
さすがというのかは分からないが、トイレも嫌な臭いがしないものなんだな、ちょっと思ったが、それは今は関係ない。
そして兵士から貰った配置図を手に、トイレから出ようとした時、俺の目に飛び込んできたのは、兵士が身につけている無線機のようなものだった。
それに、兵士の服・・・・・・。
いや、おい剥ぎではない。
ただ、そこに転がっていたから拾っただけであって、決して、強奪とかではない。
俺は兵士の服を預かることにして、丁度良いからトイレで着替えることにした。
「これで良いか」
トイレの鏡で見てみると、違和感なんて無かった。
似合うとか似合わないとか、そういう問題ではなく、怪しまれるか怪しまれないかの問題だ。
俺はトイレから出て、配置図を眺めようとしたとき、無線機から誰かの声がした。
誰だろうと思って聞き流していると、次々に他の兵士たちが返事をしていて、当然、俺の名前なんて呼ばれることはないから、そのまま黙っていた。
そしたら、知らない男の名前を連呼していて、その男は寝ているのか、それとも先程の男なのか、それとも他の理由なのか。
とにかく、その名前の主が返事を返していなかったから、俺が適当に返事をする。
「おい、返事をしろ。どうした?」
【・・・・・・】
どこをどうすれば返事が出来るのか分からなくて、色々と押してみた。
そしたらようやく俺の声が届くようになった。
「おい、何かあったのか」
【いえ、特には】
相手はせっかちなのか、俺が返事をする前にまた話しかけてきやがって、少しは待つことを覚えた方が良いと思う。
声に特徴がある男だったらどうしようかと思ったが、無かったように思うから、まあ、大丈夫だろう。
「ならすぐに返事をしろ。遅いぞ」
【すみません。気をつけます】
「お前はすぐに王のところへ行って、傍で警護をしてくれ」
【わかりました】
無線機での話が終わると、俺は思わず、悪党のような笑みを浮かべてしまった。
なぜかって、そりゃあ、これから殺そうと思ってる国王のもとへ行けって、命令されたんだから、行くしかねえよ。
それに兵士の格好をしているから、誰も俺を疑うこと無く、このまま国王の近くまで行けるんだ。
こんなに簡単な方法があったなんて、もっと早く兵士を気絶させとけば良かった。
「国王は今何処にいるんだ?」
どこへ向かえば良いのか分からなかったが、スピーチが行われる壇上へ向かえば間違いはないだろうと、俺はそこに向かう事にした。
無駄に広い城を抜けて壇上へ向かうと、先に警備についていた兵士がこちらを見てきた。
バレたかと思ったが、違った。
「遅いぞ。どこへ行っていたんだ」
「ちょっとトイレに」
そして、くだらない国王のスピーチが始まる時がきた。
『では、これよりゾンネ国王による、スピーチとなります。みなさま、盛大な拍手を!!』
まったく、反吐が出そうだった。
一応、広場からは拍手が聞こえてくるが、きっとそれは心がこもっていない、ただ形式上のものだ。
国王は何も知らず、俺に背中を向けて手を振りながら壇上にあがる。
ニコニコと、気持ちの悪い笑みを見せるなと言いたかったが、俺は大人しく、自分が仕掛けた爆弾のタイマーがゼロになるのを待つ。
『えー、本日はお日柄もよく』
そして国王のスピーチが始まった。
その途端、俺が仕掛けた爆弾が爆発を起こして、広場の奴らも兵士たちも、当然の如く国王も、みな驚いていた。
その中には、腰を抜かしていた奴もいた。
だが、驚いたのは俺も同じだ。
それは、他の奴等とは別の理由で、だ。
あれだけ沢山の爆弾を仕掛けたにも関わらず、なんでこんな小規模の爆発になってしまったのか。
時間をかけて仕込んだってのに、本当に嫌になる。
ふとそのとき、俺は気付いた。
ああ、きっとさっき兵士たちが騒いでいたのは、爆弾の存在に気付いた奴がいたからで、きっと爆弾を回収されていたんだと。
まさかすぐに気付かれるとは思っていなかったから、想定外だし予想外だ。
だがしかし、小さかったとしても爆発したという事実に変わりはなくて、俺は腰に隠しておいたナイフを握る。
まるで走馬灯のように、周りにいる奴等の動きがゆっくりと見える。
こんなにも兵士たちがいる中、国王はただ1人、自分のことだけを考えて、自分を優先して守るようにと、縋るように兵士たちを見ていた。
俺が近づいて行くと、馬鹿みたいに、助けてもらえると安心したような顔になったが、生憎だったな。
俺は今からお前を殺すんだ。
残念だが、お前は誰にも守られることなく、このまま地獄へ堕ちるんだ。
まだ腰にやっていた手を、ゆっくりと前にもってきて、黒煙や周りの兵士たちで俺の手元がはっきり見えない中、俺はこの手を持ちあげようとした。
だけどどういうわけか、出来なかった。
「離せ」
「離したら、国王を殺すだろ?」
「俺はそのために生きて来たんだ。ここで殺さないと、一生後悔する」
「君が手を汚す意味はないよ」
「何だと!?」
「ちょっと、付いてきて」
「おい!?」
その男は、国王を殺そうとしていた俺の腕を掴んでいて、かと思えば、そのまま勝手に俺を連れてどこかへ歩いて行く。
俺がナイフを握っていたことも、国王に向かっていっていたことも多分、その男以外知らない。
変な部屋に連れて行かれたかと思うと、男は俺に向かって笑顔でこう言ってきた。
「余計な真似してくれたね」
「んだと?お前こそ、余計な真似すんじゃねえよ!!!俺が、俺がどんな気持ちが今日まで生きて来たと思ってんだよ!!」
男は俺を見たかと思うと、笑顔を消して真面目な顔つきになって、頭を下げた。
「申し訳ない」
「は?」
そして顔をあげたかと思うと、すぐにまた笑ってみせる。
何を考えてんだかよくわからない男だが、野生の本能というか、直感というか、なんとなく、悪い奴じゃないと思った。
とはいえ、邪魔されたのは俺の方で、俺は舌打ちをして頭をかいた。
「もしかして、俺のこと知らない?けっこうな有名人だと思ってたんだけど、自意識過剰だったかな」
「俺は国王しか狙ってねぇからな。お前みたいな柔な男殺したってどうにもならねえだろ」
「ま、それもそうか。ならまずは、君とお友達にならないといけないね」
「お友達!?何言ってんだよ。お前となんか友達にはならないからな。俺はやるべきことがあるんだよ。もう行くからな」
そう言って踵を返して立ち去ろうとしたとき、また男に止められた。
「待ってよ。そう焦らないで」
「俺は今ここで捕まるわけにも、死ぬわけにもいかないんだ。絶対、何があっても、あいつを赦さねえ・・・!!」
「・・・君の気持ちは良く分かったよ」
「お前に何が分かるんだよ!!勝手なこと言ってんじゃねえぞ!!」
軽々しく、そういうことを言う奴が、俺は大嫌いだ。
俺の気持ちが分かるなんて、絶対にない。
俺の気持ちが俺にしか分からない。
それを、知ったような口ぶりで、同情だけを向けてくる奴等は、腹立たしくて仕方がない。
それでも俺をまっすぐ見据えて来たそいつは、ふう、と小さく息を吐いた。
呆れてるのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「とにかく、俺の話を聞いてほしい」
「お前の話なんて興味ない」
「きっと、君の役に立つと思うよ」
「?」
俺はその男の話を聞いた後、その男と一緒に、また壇上へ向かっていた。
なんでも、国王は懲りずにスピーチをするらしく、また警護が必要になったから、俺もそこに合流することになった。
またつまらない話が始まると、1人の兵士がどこかへ行ったようだが、俺には関係ないことだ。
しばらく話した後、国王は息子に本日、今、王座を明け渡すと宣言した。
それまで国王が被っていた王冠を息子に被せて国王よりも前に出ようとしたその時、俺は息子を見て笑っている国王の背後に回った。
後ろから首に腕を回し少し苦しめるようにすると、スピーチが始まった時に離れていった兵士の野郎が、そんな俺を見て腰にある剣に腕を伸ばしてかまえた。
殺される覚悟だったが、その兵士はかまえるのを止めた。
「お前、一体何を!?赦さんぞ!!一生、飼殺しにしてやるからな!!」
「この世にいる価値のない奴だな。ここで俺が殺してやってもいいんだ」
「なんだと・・・!?」
「俺の家族を殺しておいて、よく平然と生きていられるものだな!!」
「ふざけるな!!ワシを誰だと思っている!?こいつを捕えろ!!絶対に赦さん!!」
こいつだけは赦せないと、俺は首にかけていた腕に力を込めたのだが、その時、新しい国王となった男が、近づいてきた。
「息子よ!!ワシを助けておくれ!!この恩知らずを殺せ!!」
その男は、俺が自分の父親を拘束しているというのに平然としていて、笑顔のまま近づいてきたかと思うと、国王だった野郎の耳元に顔を寄せ、何かを言っていた。
誰よりもその場に近かった俺でさえ、何と言われたのか分からないほどの声で、何を言われたのかも聞こえなかったが、国王だった男は表情を変え、まるで一気に地獄の淵に立たされたような顔になった。
そしてその場にへたり込んだため、俺は腕を解放した。
だが、それでもこの男のしたことを赦せるはずなどなくて、俺は絶望の顔をしている男を睨みつけていた。
しかしそれからすぐ後、いきなり爆発した。
俺は忘れていた、脱出用にと誘導作戦用で仕掛けておいた、時間差で起こる爆弾の事を。
ああ、やばい、とは思ったが、もうどうにもならなくて、俺はただそこを眺めていたんだけど、その爆煙の中から、宝石のような綺麗な何かが降ってきた。
太陽の光によって、見たこともないその綺麗な輝きはさらに綺麗に輝いていて、そのまま星屑になることもなく、地面へと落下していった。
隣では、国王となった男が、笑っていた。
だから、つられて笑ってしまった。
それから、俺の家族を奪った国王は島流しの刑に処されることになった。
正式に、裁かれた、ということ。
それから俺は、信頼できる奴が出来て、そいつのために生きることにした。
これが、俺の経験した物語だ。
最初のコメントを投稿しよう!