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第四宵【盗人ルート】
運命の中に偶然はない。人間はある運命に出会う以前に、自分がそれを作っているのだ。
ウッドロウ・ウィルソン
第四宵【盗人ルート】
「ようやくこの日が・・・!!」
俺はフォルトといって、兵士としてこの城に潜りこんでいる。
なぜなら、この城に眠ってるとされている、国宝たちを盗むためだ。
ここの国王は金に目がなくて、持っているお宝たちも相当の価値があると、俺は勝手ににらんでいる。
だから、苦労はしたが、兵士として雇ってもらって、どこに宝があるのかを探っていたってわけだ。
でもなかなか1人で行動することがなくて、それに、国宝たちは王の部屋にあるって話だから、忍び込むのも一苦労で、見つかったら本当にやばいんだ。
それでも仕方なく、今日までは大人しくしていた。
どうして今日かっていうと、今日は王が国民たちの前で大事な話があるとかでスピーチをするんだとか。
てことは、王の部屋の兵士たちも手薄になるし、あわよくば、誰もいないって可能性も出てくるわけだ。
これをチャンスと言わずに、いつをチャンスと言うのだろうか。
俺はルンルン気分で広場を一周し、それから城の中の見張りでもしようと思って歩いていたら、別の兵士が声をかけてきた。
「お前、門の見張りだろ?ようやく交代か」
「え?俺門の見張りじゃないですけど」
「嘘吐くなよ。じゃあ、誰なんだ?」
「さあ?でも、俺は城内の見張りをするようにと言われてます」
「そうか」
門のところで、交代の兵士を待っていた兵士に見張りの交代かと言われ、門の見張りではないと伝えた。
だって、門で見張りなんかしていたら、国宝を盗めないじゃないか。
そんな話をしている間に、誰か男が入ったように見えたが、まあいいか。
別に俺は兵士としての志があるわけではないし、王を守ろうなんて思っていないし、ただ国宝が欲しいだけ。
俺は城内に入ると、とにかく怪しまれないように、今日のスピーチでの兵士たちが何人ほど壇上へ行くのかなどが書かれている紙を探すことにした。
金目のものがあったら、それも一緒に頂戴してしまおうかと。
ある部屋に入って、ちゃんとドアを閉めて、でも見られたら面倒だから、電気は点けずに薄暗いままで捜索していた。
「確か、この辺にしまってたと思うんだけどなぁ・・・」
記憶を頼りに探していると、急に、部屋のドアが開いた。
「おい」
ビクッと、それはもう面白いくらいに、肩も心臓も大きく動いたね。
だってそうだろ?急に人が入ってくるなんて思わなかったから。
「こんなところで何をしてる?」
「す、すみません。この辺に眼鏡を落としてしまって、探していたんです」
それは兵士たちのリーダーのような男で、確か、フロマージュとか、ソリマージュとか、そんな感じの名前だった気がする。
はっきりいって、覚えていない。
「そうか。一緒に探してやろう」
「いえいえ!!滅相もありません!自分1人で見つけてみせます!!お手を煩わせるわけにはいきませんので!!」
向こうは親切心で言ってくれているのだろうが、俺からしてみればはた迷惑な話だ。
本業の仕事の邪魔なんかされたんじゃ、たまったもんじゃない。
「・・・そうか?じゃあ、俺は行くぞ。見つかるといいな」
「はい!」
元気に返事をすると、その兵士は部屋から出て行った。
俺は安堵のため息を吐く。
いや、眼鏡なんてかけてないけど、よく咄嗟にあんな上手な嘘が吐けたものだと、自分で自分を褒めてあげたい。
冷や汗はかいたが、なんとか乗り切れた俺は、またそこから捜索をする。
「あったあった!!」
探していたものがようやく見つかって、俺は嬉しくてその場で小躍りをした。
そんな大層な踊りではなくて、本当に、他人に見せるのが恥ずかしいレベルのものだ。
とにかく兵士たちの配置図が見つかって、俺はそれを折り畳んでポケットに入れた。
スキップをしたい気持ちになったが、そんなことをして怪しまれたら嫌だと、冷静に、大人になって美しく歩いた。
そんなとき、先程門で見かけた男が、なにやらごそごそと怪しい動きをしていたのだが、見なかったことにする。
どうしてかっていうと、兵士としての誇りなんて無いから。
無線機からは、絶えず次々に何かが聞こえていて、俺はボリュームを小さくしようと手を伸ばした。
そんなとき、不審なものを見つけたという連絡が入った。
もしかして、さっきの男かと思ったものの、また面倒なことになりそうで、黙っていた。
その不審なものというのは、言わずもがな爆弾だと分かって、それらが幾つも見つかったことから、爆弾の捜索をするようにとの指示が入る。
俺も仕方なく探すふりだけはしようと思って、楽そうな牢屋へと向かった。
「そうだよなー。やっぱりどう考えても、王の部屋に行くルートはこれしかねえんだもんなぁ・・・」
そんな独りごとを言いながら。
「おい、兄ちゃんよ」
牢屋に着くと、なんだか慣れ慣れしく声をかけてきた男がいた。
なんともワイルドそうなその男は、俺を見ているような気がして、念のため周りを見たが誰もいなくて、返事をする。
「俺?」
「お前しかいねぇだろ。今日、何かあんのか?」
そりゃ俺しかいないけど、もしかしたらってこともあるじゃないか。
「何かって」
「何かだよ。いつもと違って、えらくこまめに来るなーと思ってよ。大事なことか?」
多分、そいつが言っていることはスピーチのことなんだろうが、急に言われた俺は、盗みのことを知られたような気がして、少しだけ同様してしまった。
覚られてはいないと思うが、変な奴だとは思われただろう。
「今日は王のスピーチがあるんだよ。なんでも、息子に王位を明け渡すって宣言する予定らしい。まあ、王から息子に代わったところで、何が変わるって話だけどな」
正直に、密かに兵士たちだけに知らされているスピーチの内容を話した。
すると男は目をぱちくりさせ、それからすぐに口角をあげて笑った。
やべ、と思ったけど、まあいいや。
「・・・兄ちゃん、兵士のくせにそんなこと言っていいのか?俺、告げ口しちまうかもよ?」
告げ口は困ると思って、俺はそこから急いで離れた。
一応、内密に、と言われたことをすっかり忘れてしまっていた。
だが、本当に思ったことを言ったまでだ。
俺は時間まで適当にフラフラと歩いて、時間になったら王の部屋に忍び込もうという作戦を立てた。
ぼーっとしながら歩いていたら、向こうから誰かが歩いてきて、見覚えがある気がしたけど放っておくことにした。
そのまま何事もなくすれ違ったかと思うと、急に後ろから首を絞められる。
どうやら、さっきすれ違った男が、俺を襲っているらしい。
「おい、今日のスピーチの時のお前ら兵士の配置図か何か知らないか」
何を企んでいるのかは知らないが、俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ。
兵士としての誇りも無けりゃ、人としての誇りもない俺は、苦しさのあまり悶えながらも、なんとか返事をする。
「ぐえっ!!!は、配置図!?こ、これのこと・・・!?」
俺が探して手に入れたそれをポケットから出して見せると、そいつは確認するように眺めていた。
「・・・これか」
よかった、これで俺は無事に解放されるんだと期待していたが、この時の安易な考えを持っていた俺自身を恨んでやる。
その男は俺の首をさらに強く締めたものだから、さすがに俺もお手上げで、そのまま意識を失った。
「ん・・・?」
目が覚めると、寒かった。
それもそのはずで、俺は身ぐるみを剥がされていたのだ。
恥ずかしいわけじゃなくて、寒い。
きっとさっきの男が兵士の服に着替えたのだろうと分かり、俺は予備の兵士の服がある部屋へと走って行った。
多分誰かに見つかっていたら、変質者だったが、幸いなことに、誰にも見つかることはなかった。
着替えをして部屋を出ると、早歩きでこちらに向かってくる、なんとかージュがいた。
「何をしてる」
「す、すみません」
そのなんとも言えない圧迫感に、俺は悪くもないのに、いや悪いかもしれないが、今はとくに悪くないのに謝ってしまった。
するとそいつは俺の腕を引っ張りだした。
「いいからお前も来い。これからスピーチが始まる。警護につくぞ」
「え!?で、でも・・・」
「でもじゃない。付いてこい」
なんでこんなことになってしまったんだろう。
今頃俺は、王の部屋の近くでウロウロと警備をしているはずだったのに。
まさか王の無意味なスピーチを、目の前で聞くことになるとは思ってもいなかった。
悪夢のような時間が刻一刻と迫る中、俺は絶望を受け入れることが出来ず、少しずつ後ずさって、なんとかバレないようにここから抜けだそうとしていた。
『では、これよりゾンネ国王による、スピーチとなります。みなさま、盛大な拍手を!!』
ついに、始まってしまった。
明らかな社交辞令の拍手にも、素直に喜べるこの王はきっとポジティブな性格なんだ。
俺のように、この状況を悲観に感じてしまっているネガティブな人間とは違って、悪口を言われても褒められていると勘違いできるような、自分主義の性格。
『えー、本日はお日柄もよく』
よくねえよ、と心の中で毒を吐いてみる。
どうせ誰にも聞かれないんだからいいだろうと思って、ぶつぶつと王の悪口を言おうとしたのだが、その時・・・。
「なんだ?」
大きな爆発音が聞こえてきて、黒い煙にもくもくと覆われることになった。
一体全体何が起こったのかはさておき、これは俺にとっての絶好のチャンスであって、王を守ることよりも大事なことがあることを思い出し、俺は動き出した。
ナイス煙幕、と親指を立てて爆発を称賛したところで、俺はデジャブに遭遇する。
1人で行動しているのが悪かったのか、急に襲ってきた何かによって、再び、気絶させられてしまったのだ。
嘘だと言ってくれ、俺・・・。
「いって・・・」
さっきの奴は頭を狙ってきたもんだから、まだ少し頭がクラクラする。
それに、目を覚ましたらどうしたものか。
ここは俗に言う、いや、俗に言うまでもないが、トイレじゃないか。
綺麗とは言い難いそんな場所に放置されただけではなく、これもデジャブなのか、予備の兵士の服も脱がされていた。
「どうなってんだよ!俺!」
ふと横を見てみると、そこには誰だか知らないが、兵士の格好をした男が、同じように気絶させられていた。
それも、丁寧に縛られた状態で。
「しょうがねえ。すまねえな」
いや、悪いのは俺ではない。
俺を気絶させて服を盗んだ奴が悪い。
じゃなければ、俺だって、こんな寝てる奴の身体から、体温を維持するための服を脱がせて身につけようなんて、思うはずがない。
だから、心から謝ったわけではないが、とりあえず謝っておいた。
「さてと、とりあえず・・・。騒ぎが起こってる間に行くか」
俺は、国宝たちが待っているであろう王の部屋まで、一直線にかけていった。
それはもう、多分、これまでの人生の中で一番速いんじゃないかっていうくらいのスピードで。
「よし、着いた」
ドアノブを持って、開けるだけ。
・・・の、はずだった。
「あれ?あれ?」
ガチャガチャと、何度やってもドアは開かなくて、俺は気付いてしまった。
手薄になると分かっていたから、王は自分の宝石たちを守る為に、部屋に鍵をかけていったのだと。
「嘘だろ・・・」
此処まで来てダメか、と諦めかけたのだが、ズボンの折り返しの部分に、何かきらっと光るものが入っていることに気付いた。
なんだろうと思って取りあげてみると、それは細い針金のようなもので、ピックングするにはもってこいの道具だった。
「ラッキー!俺ついてる!!」
俺は両膝を曲げて鍵穴にそれを差し込むと、何度か動かしていく。
ピッキングなんて、数回しかやったことがないが、手が覚えているのか、案外簡単に開いてしまった。
「よっしゃ!」
その針金を耳にかけると、ぎい、と静かにドアを開けて、中に誰もいないことを確認してから入る。
「・・・うへー、悪趣味な絵」
真正面に飾られているのは、王の肖像画だ。
自分のことを良い男だとでも思っているのだろうか、それは分からないが、客観的に言わせてもらえるのであれば、決して、顔も性格も良い男じゃない。
まあいいかと、俺は用意していた大きな袋に、並べられている宝石たちを詰め込んで行く。
今日の日のために、慣れない裁縫をコツコツとやっていた甲斐があったってもんだ。
宝石たちはこのむさ苦しい場所から出ることが出来て、なんとも嬉しそうに笑っているじゃないか。
実際は笑っているわけじゃないが、そう見えるっていうだけの話。
俺は大方宝石を救出し終えると、なんだか肖像画のことが気になってしまって、テーブルに置いてあったガラスペンを手に取る。
一旦肖像画を下ろそうと試みたが、出来なかった。
「お?」
だが、肖像画の後ろに小さな金庫があることが分かり、裏に入りこんで金庫を開けた。
どうやって開けたかって、簡単なこと。
ここには王は馬鹿だから、金庫の番号を横に書いていた。
中には格別の宝石たちがいて、俺は小さな袋を準備して、そこに全部詰め込んだ。
心が温かくなって、俺は肖像画をもとに戻すと、ガラスペンにたっぷりインクをしみこませて、達筆な文字を書いた。
それだけでは足りないような気がして、所謂油性のマーカーで、肖像画に落書きをしてみた。
ついてもいない髭をかいたり、眉毛を繋げてみたり、鼻毛を書いたりまつげをかいたり、歯を出っ歯にしてみたり。
とにかく、子供みたいに落書きした。
それに満足した俺は、小さな袋を腰に下げ、大きな袋を背中に担ぎながら、季節外れのサンタクロースになって部屋を出る。
「嘘だと言ってくれ、俺・・・」
すぐに脱出出来ると思っていた俺は甘かったのだろうか。
服を奪う時、無線機ももらっておくべきだった。
あの爆発があったから、出入り口は全て封鎖されており、兵士でさえも簡単には出られない状況になっていた。
「こんな荷物抱えて、どうやってこっから出りゃいいんだよ・・・」
俺は適当な部屋に入って、しばらく体育座りをして落ち込んでいた。
もうダメだ、このまま捕まるのを待つだけなんだ。
いや、今なら元に戻せば間に合うかもしれないが、折角手に入れたこの宝石たちを置いていくことなんて、俺には出来ない。
「どこかで出口はある」
そんな僅かな希望を胸に、俺は歩いた。
他の兵士に見つからないように、それでいて、脱出が出来るように。
どのくらいウロウロしていたのかは分からないが、もう行くところは牢屋くらいしかなくて、牢屋に向かって歩いて行った。
その時、今使っている牢屋よりもさらに地下があることに気付く。
そういえば、昔はもっと地下の牢屋を使っていたとか言っていたような、言っていなかったような。
とにかく、今は鎖がされている階段の向こうが気になって、俺は重たい荷物を背負って行くことにした。
「お?おおおおおお?」
俺は、この俺の目を疑った。
なぜなら、そこには人工的に掘られたのだろう穴があったからだ。
しかも、外に繋がっている可能性がある。
俺はその穴に腕を入れてみるも、蛇などの巣でもないことが分かり、思わず発狂しそうになって、声を押し殺した。
だが、穴はそれほど大きくなくて、人1人がやっと入るくらいだった。
どうしようかと思って、とりあえず、大きな荷物を外に置いたまま、自分が入ってみることにした。
上手くいけば大きな荷物を運べるかと思ったのだが、多分無理だろう狭さだ。
「ぐっ・・・どうするか・・・」
一旦外に繋がっているかを確認しようと、俺は自分の身体だけを必死に動かして、とにかく前へ前へ進んだ。
そして光が見えた、と思ったその時だ。
また大きな爆発が起こって、しかも結構近いところで起こったらしく、穴が崩れてしまいそうだったから、急いで脱出した。
なんとか穴から顔だけを出したと思ったら、広場に何か綺麗なものが飛び散っていた。
「おい、まさか・・・」
何度でも言おう、目を疑った。
それはまさしく、俺は盗みだした大きな袋に入れていた宝石たちだったのだ。
多分、あの荷物の近くで爆発があって、爆風によって一旦は上に勢いよく飛んでいったが、綺麗なカーブを描いて落ちていっているのだ。
俺はそれを拾うことも出来ずに、ただ笑うしかなかった。
まあでも、腰につけていた小さな袋に入った宝石たちは無事だったから、良いと思う事にする。
俺は穴から無事に出て、僅かな宝石という土産を持って、そこから立ち去ろうとした。
前を兵士が歩いていたが、俺は早足でそこから逃げようとして、だからなのか、俺はそいつとぶつかってしまった。
何も言わずにさっさと歩いて行くと、なんだか腰が重たいような気がして、腰に目をやる。
「これは、鍵?なんか売れそうだな」
ジャラジャラと、沢山の鍵がついたものがあって、溶かして固めれば、それなりに売れると判断した。
その代わり、耳にかけていた針金のようなものは落としてしまったらしく気付いたら無かった。
欲しかったもの全ては手に入らなかったけど、まあ、これでしばらくは生活出来るはずだから、良しとすることにした。
「早く帰って、喜ばせてやるか」
まあ、あんな城にはもう二度と、行きたくねぇがな。
これが、俺の経験した物語だ。
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