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14 恋人たちの予感
一年の中でこの時期の下刈りが一番きついかもしれない。直樹は新人たちの様子を伺いながら長く伸びた草を刈っていた。前野浩二に濃い疲労が見える。
「少しみんな休憩して水分補給をしようか」
直樹は木陰の草の上で皆を休憩させる。
「慣れてても辛いからね。この作業は。脱水症状に気を付けて」
「はい」
「午後は長目に休憩するけど、やばいなと思ったら遠慮せずに休んでくれ」
「わかりました」
この下刈りでまた脱落者が出るかもしれない。直樹もこの真夏の作業に入ると、いつも初めてこの作業をしたときのことを思い出す。永遠に終わらないのではないかと思われる暑さと、草の多さに辟易したものだった。
若くても『暑さ』に対する慣れがないと厳しい作業だった。うだるような暑さの中、それでも新人たちは食事をできるだけの元気はあるようだ。(ここで飯が食えないときついんだよな)
直樹は辞めていった人たちのことを思い、午後からも少し作業をし一日で一番辛い時間帯を長めに休むことにした。
「昼寝してもいいよ」
「はーい」
「ふー。疲れるなあ」
作業は新人を含めて七人でこのあたりの草を刈った。それでも次々に草は伸びてくる。直樹のトランシーバーが鳴った。
『はい。大友です』
『石崎だけどそっちどう? こっち熱中症一人出ちゃってさ』
『こっちはなんとか大丈夫そうです』
『そうか。じゃ適当に頼むよ』
『了解』
直樹はふうっと大きな息を吐いた。(年々暑くなるからなあ)
「あの。大友さん」
浅井柚香が声を掛けてきた。
「ん? どうした? 調子悪い?」
「あ、いえ。すみません。ちょっと聞きたいことがあって……」
「そう。今、別班で熱中症が出たから気をつけてね。仕事のこと?」
(じゃ、ないよな……)
「いえ。違うんですが……。ダメですか?」
(まあいいか。休憩時間長くしてるし、終業後ってのもあれだしな)
「いいよ。どうぞ」
「この前はありがとうございました。それで、あのペンションの沢田さんのことなんですが……」
柚香が言いにくそうにしているが直樹は察しがついていたので代わりに話す。
「いい奴だよ。浮いた話一つなくて。週明け以外はだいたいあのペンションで演奏してるから良かったら行ってやって」
「そうなんですね。フリーそうでよかった」
柚香がホッとした表情をみせる。
「まあ草食っぽいから女の子から押したほうがいいね」
柚香は照れ臭そうにしているがまんざらでもないのだろう。小さな声で「ありがとうございました」と再度言った。
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