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3 実家
直樹は優樹と一緒に久しぶりに実家を訪れると兄の颯介が出てきた。(ますます親父に似てきたな)
若々しいが恰幅が良く機嫌の良さそうな颯介は亡き父の輝彦に酷似してきている。
「おっす。お、優樹もきたか。孝太がいるぞ」
「おじちゃん、こんにちは」
優樹は簡単に挨拶をして孝太の部屋へ向かって行った。
「兄さんと孝太だけ?」
「ちょうど早苗と母さんは買い物。聖乃は部活だな。ゆっくりしてけよ」
直樹はあがってとりあえず優樹の土産を渡した。
「ああ。修学旅行だったのか」
颯介とソファーでくつろいでいるとドタドタと孝太と優樹が二階から降りてきた。手にはサッカーボールを持っている。
「おじさん、こんにちは。外で遊んでる」
「こんにちは」
中学の頃の颯介にそっくりな孝太と優樹は元気よく外へ飛び出していった。
「優樹はお前にあんまり性格は似てないな。顔は似てるけど」
「そうだね。孝太みたいに中学でサッカーしたいみたいだし。みんなとワイワイやるのが好きみたいだよ」
「お前は一人で居たがる方だったもんなあ。水泳部だったし」
「そういや。兄貴もサッカー部だったな。まあいいんだけどさ。はあ……」
「どうかしたか?」
「一人息子ってさあ。やっぱマザコンになりやすいのかね。もう小六なのに緋紗にべったりだよ」
五十歳をすぎても、好奇心旺盛な目をした若々しい颯介は目をキラキラさせながら「お前こそ相変わらず嫁べったりだな」 と笑った。
直樹は当然だと言う顔をしてながら不満を漏らす。
「べったりさせてもらえないんだよ」
「あはは。中学入ったらマシになるって。そろそろ好きな女の子とかできるだろ。まあ男はそういうとこ遅いからさ」
ふうっと息を吐き出す直樹に続ける。
「緋紗ちゃんモテモテだな。おまえと優樹と。そうそう孝太も好きだって言ってたぞ」
「それってモテてるのか」
「ああ、もう一人。ペンションでピアノ弾いてるやつ。あいつも緋紗ちゃんのファンだろ。あれは気をつけろよお?」
「えっ」
直樹は意外なことを言われてドキッとした。
「すまんすまん。なんとなくだからさ」
茶化したように言うが颯介の勘の鋭さは半端ない。今でこそ落ち着いているが、若い頃から遊び歩いていた颯介は男女の機微に察しが良かった。
「沢田君か。まだ独身だったな……」
沢田雅人は緋紗がアトリエを借りているペンション『セレナーデ』でディナータイムにピアノの演奏を行っている。オーナーのピアニストだった妻、小夜子が亡くなった後、小夜子を信奉していた沢田が演奏を引き継ぐことになったのだった。本職は作業療法士で今年三十六歳になるはずだが、浮いた話一つ聞いたことがない。
「そんなに気にするなって。もう何年か前に思っただけだからさ」
聖乃がまだ小学生で緋紗の陶芸教室に通っていた時に、颯介も送り迎えをしていたことがあった。その時に沢田と会うこともあったのだろう。直樹が考え込んでいると、母の慶子と颯介の妻の早苗が帰ってきた。早苗が元気の良い明るい声をかけてくる。
「久しぶりね」
「おかえり。ちょっとお土産を置きにね」
「うんうん。そこで優樹に会ったわよ」
「子供のころの颯介と直樹そっくりねえ」
老いた慶子は思い出したように静かに微笑んで言う。
「仲良かったのね」
「俺の場合は兄貴に連れまわされただけだけどね」
「えー。そうだったかあ」
「聖乃は部活忙しそうだね。バスケットだっけ」
「うん。レギュラーになったしね。次の試合から出してもらえるらしいの」
「へー。さすがだね」
聖乃は颯介に顔立ちは似ているが早苗に似て大柄で体格が良かった。
「後輩の女子にモテモテだってさ」
颯介は小気味良さそうに言う。(男子だったら大騒ぎしてるんだろうな)直樹はこっそり笑った。
賑やかな昼食を終えてから、直樹と優樹は緋紗の待つ静かな家へと帰った。
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