ある人形の話

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 おいらが昔、サーカスにいた時のことだ。  その頃の人気芸人の一人が、腹話術師のジョンだった。奴は二枚目だったが、芸に関しちゃ真面目一方の男だった。  おいらはジョンをいい仲間だと思ってたし、奴も多分そう思ってたんじゃねえかと、今でも思うぜ。  そんなジョンがある日、死んじまった。誰かに殺されたんだ。  犯人はわからなかった。目撃者も誰もいなかったし、それらしい物証も残ってなかったからな。  見ていたのは、ジョンの相棒の人形だけだったってわけだ。  数日後、ジョンの葬式が行われた。  団員の一人、トミーがジョンの人形を棺に入れようとした時だ。いきなり人形の眼と口が開き、教会に甲高い声が響いた。 「犯人はトミーだ!」 「犯人はトミーだ!」 「犯人はトミーだ!」  けたたましく叫んでいたのは、そう、ジョンの人形だったのさ。  トミーはもちろん、葬式に参列していた客たちも震え上がった。サーカスの団員の中で、腹話術が出来るのはジョンだけだったからな。  結局、その場でトミーは自分の罪を告白した。自分の女をジョンに取られたと思い込んで、口論になった挙句殺したとかいうくだらねえ動機だった。  人形は騒ぎのドサクサにまぎれて姿をくらました。これでも子供には人気があってね、参列者の子供にこっそり頼んで、外へ連れ出してもらったのさ。  ま、それから色々あってその人形……つまりおいらはここにいるわけさ。  普通の人形の振りをしてあちこち旅して来たが、久しぶりに元の商売をしてみたくなってな。  なに、しゃべりはおいらがやるさ。ただ、おいら一人じゃどうにも様にならねえんでな。  なああんた、おいらの相方になっちゃもらえねえかい?
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