7人が本棚に入れています
本棚に追加
おいらが昔、サーカスにいた時のことだ。
その頃の人気芸人の一人が、腹話術師のジョンだった。奴は二枚目だったが、芸に関しちゃ真面目一方の男だった。
おいらはジョンをいい仲間だと思ってたし、奴も多分そう思ってたんじゃねえかと、今でも思うぜ。
そんなジョンがある日、死んじまった。誰かに殺されたんだ。
犯人はわからなかった。目撃者も誰もいなかったし、それらしい物証も残ってなかったからな。
見ていたのは、ジョンの相棒の人形だけだったってわけだ。
数日後、ジョンの葬式が行われた。
団員の一人、トミーがジョンの人形を棺に入れようとした時だ。いきなり人形の眼と口が開き、教会に甲高い声が響いた。
「犯人はトミーだ!」
「犯人はトミーだ!」
「犯人はトミーだ!」
けたたましく叫んでいたのは、そう、ジョンの人形だったのさ。
トミーはもちろん、葬式に参列していた客たちも震え上がった。サーカスの団員の中で、腹話術が出来るのはジョンだけだったからな。
結局、その場でトミーは自分の罪を告白した。自分の女をジョンに取られたと思い込んで、口論になった挙句殺したとかいうくだらねえ動機だった。
人形は騒ぎのドサクサにまぎれて姿をくらました。これでも子供には人気があってね、参列者の子供にこっそり頼んで、外へ連れ出してもらったのさ。
ま、それから色々あってその人形……つまりおいらはここにいるわけさ。
普通の人形の振りをしてあちこち旅して来たが、久しぶりに元の商売をしてみたくなってな。
なに、しゃべりはおいらがやるさ。ただ、おいら一人じゃどうにも様にならねえんでな。
なああんた、おいらの相方になっちゃもらえねえかい?
最初のコメントを投稿しよう!