一章「あなたの居場所はどこですか?」

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一章「あなたの居場所はどこですか?」

 巨大なコンクリートの塊が積み上がって作られたビル群。  それが大小様々に、まるで山のように連なり、地面をくまなく覆い隠している。 「自然がない」  思わずそんな呟きをもらしながら、私は眼前に広がる光景を無気力な眼差しで見下ろした。 「ほんと、ビルばっかりで嫌になる。目に優しくないよね」 (なにより、四季もろくに感じられないし……)  そんな今更なことを思いながら、朝食代わりのパック豆乳にストローを突き刺すと、音をたてながら飲み下していく。  正直なところ、自然が何もないわけではない。  目を凝らして見てみれば、ビル群の一角に緑化運動の名残なのか草木を生やしているビルはある。ただし、お情け程度だが……。 「それでも基本、コンクリートジャングルだよね。都会は」  そうまでして、自然を根絶したいのかと呆れてしまう。 (もうちょっとしたら、戻らなきゃ……)  携帯で残り時間を確認する。 「五分もない自由よ。時間なんて物は、ほんとに無情だなー」 与えられた限りある自由時間をどれだけ謳歌できるか。  そんなことを考える暇もなく、気持ちを仕事モードへと切り替えていく。 飲み干したパック豆乳のストローから口を離すと、大きく背伸びをした。 大丈夫、まだ頑張れる。今まで通り、なんてことはない。 「今日も一日、頑張りましょー」  私は誰もいない屋上で一人寂しく激励会をしてから、階下の職場へと向かった。  🌸 🌸 🌸  私の名前は、桐真詩織(きりざねしおり)。  好きな物は、甘い物と小動物。嫌いな物はたくさんあるけど、強いてあげるなら虫。  夢はない。なりたいモノも、やりたいコトもない。  ただ、都会に出てきたいという漠然とした想い一つで、高校卒業と同時に上京してきた。  家族関係も、もともとそれほど良くなかった。だからいい機会だと思って、家出同然に飛び出してきてから、今まで一度も帰ってはいない。 『後悔はしていないのか』 『一度も実家に帰らないなんて、親不孝じゃないのか』  なんて、そんな自分を責める人もいるけれど、別に気になどしていない。  所詮は他人事。勝手な価値観の押しつけと説教に、いちいち心を痛めてなどいられない。  そもそも家庭の事情などその家それぞれなのだから、放っておいて欲しい。  そんな価値観の押し付け合いより、なによりも――。  ピルルルル……! プルルルル……! (余裕なんて、ないんだよなぁ!)  雑念とした思考を掻き消すように、電子的な機械音がけたたましく鳴り響いている。  鳴り止む気配は、ない。  何故なら、私以外に電話をとる人間がほとんどいないからだ。
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