10人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなたの居場所はどこですか?」10
🌸 🌸 🌸
工藤さんと久々のお昼をかわし、午後の戦争が再開された。
普段と変わらない――それどころか、常設と催事の両方のスケジュール管理をしなければいけない筈なのに、桐真詩織の身体は――心は、がらんどうだった。
ピルルルル……!
「ねえ、桐真さん」
プルルルル……!
「桐真さん、電話とってー」
普段なら嫌だと感じる間もなく反射的にとる受話器も。
貼り付けた愛想で交わす会話も。
カタカタと高速で奏でられるタイピングの旋律も。
何もかもが遠く色褪せた光景となって目の前に広がっていた。
音が遠い。
声が遠い。
目の前の情報が頭に入ってこない自覚はあった。身体はいつも通りに動いている筈なのに、まるで身体から精神だけが風船のように抜けだして、ふわふわとした状態のまま俯瞰して世界を眺めているような感覚だ。
それは……誰かのせいなんかじゃない。
(決して、工藤さんのせいなんかじゃない。寧ろ、感謝しないといけないくらいだ……)
私自身の問題なのだと、再認識させられたから――。
「ちょっと、桐真さん! しっかりしてくれない?」
「え……? あ……」
いっそう鋭い声が鼓膜を叩き、ゆっくりと声がしたほうに目を向けた。
するとそこには、社内一同性に対して厳しく、女性界隈の中で〝お姉様〟《おつぼねさま》と囁かれている人物が立っていた。
「目障りだし、邪魔なのよ。仕事しない奴って、見ててイライラするのよねー。最終的には全部私に降りかかってくるし」
「す、すみません……」
「何も仕事しないんなら、帰ってくれない?」
「…………」
〝お姉様〟の言葉が次々と降りかかってくる。その言葉の重さが、よりいっそう私の気持ちを深く落とし込ませた。
最初のコメントを投稿しよう!