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「あなたの居場所はどこですか?」11
そのまま、荷物を持って帰っても良かった。
けれど、どうしてだろう。
そのまま帰るのが癪だったのか。変な意地なのか。
〝社会人〟としてそうでなければならないと、自分の中の何かが声を上げる。
だから〝お姉様〟に向き直り、深々と頭を下げた。
「すみませんでした。……仕事、させてください」
その言葉が正しかったのかは分からない。もっと他に良い言葉があったかも知れない。
不甲斐なさ。
惨めさ。
悔しさ。
どの言葉も当てはまりそうで当てはまらない。
でも、震えそうになる声を精一杯押し殺して、紡ぎ出した言葉がそれだった。
気を抜いていたのは自分だ。
どんな言葉を投げかけられようとも、それは受け入れなければならないと思った。
ストンと力なく椅子に座り直してからは、クシャクシャな気持ちを無理矢理つなぎ止め、がむしゃらに仕事をこなしていった。
「桐真さん、もうそろそろ終電でしょ?」
終電間際になり同僚からそんな言葉を掛けられて、私はようやく我に返った。
「昼間のお姉様の言葉、気にしすぎないほうがいいよ。あの人なんて定時でとっくに帰ってるし……その日の気分で突っかかる人なんて変わるじゃない?」
「それは……そうかもしれませんが」
「今日はたまたま――運が悪かっただけなんだから。どんなに頑張っても、あのお姉様が認めてくれるわけでもない。あの人の顔色を常に伺いながら仕事をしてたら桐真さんが疲れちゃうわよ」
「…………」
別に、認めて貰いたかった訳じゃない。
同僚の言葉についそう言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。
昼間の失態を挽回するために。
懺悔をするかのように。
――期待のない期待に応えるために。
それはいったい〝誰〟のためなのだろう。
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