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「あなたの居場所はどこですか?」12
「……すみません。終電なので、帰ります……」
「うん、お疲れさま」
手早くコートを羽織り、携帯と鞄を持って会社を出た。
時間を確認すると、二十三時半前。
終電を逃さないよう急ぎ足で駅へと向かう。
急いで改札を抜け、最終電車に乗り込むとようやく一息つけた。
最終電車が、発車のベルと共にゆっくりと動き出す。
カタンカタンと一定の調子で響く振動が心地良い。
(……夕ご飯、どうしよう。またパスタサラダにしようかな)
電車の扉に写る自分の顔を見つめる。その表情は生気がなく、仕事と人間関係に疲弊しきっているのだと、嫌でも自覚できるものだった。
「……疲れた……」
誰に言うでもなく身体の奥底から絞り出すように、深く重たい溜め息を吐いた。
今日の失敗はなんだっただろうかと、思い返しただけでも気持ちがクシャクシャになってくる。
(もっと要領良く生きていけたらいいんだけどなぁ……)
「どうしてこうも駄目なんだろう」
誰一人として乗っていない電車だからか、次々と唇からは暗く重い言葉ばかりが零れ落ちていく。
なんで、上手くできないのか。
いつもこうなってしまうのか。
どうして、自分だけが。
「こんな情けない思いばっかり――」
胸の内にジンワリと、黒い感情が滲んでいく。
誰かのせいにしてしまいたくて。
でも、そんなことを考えてしまう自分自身にも辟易して。
結局は自分が悪いのだと、そう着地点を決めて諦めてしまう。
何もかも、全て。
あることなすこと悪者になってしまえばいい。
そうして心を殺して生きてさえいれば、きっといつかは上手くいける筈なのだから……。
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