「あなたの居場所はどこですか?」13

1/1
前へ
/27ページ
次へ

「あなたの居場所はどこですか?」13

『次は、☓☓駅――。☓☓駅です』  電車の機械的なアナウンスにはっとする。  疲労と気疲れで眠ってしまいそうだった。  降り過ごさないよう慌てて気を引き締め鞄を持ち直すと、ちょうど目的地に着いたのか目の前の扉が開いた。 「ああ……、もう十二時回ってる」  天井近くにぶら下がった時計に視線を向けると、時刻はもう次の日になっていた。  無人の改札を抜け、静寂に包まれた駅内を一人、地上に向けて歩き出す。  カツコツ、カツコツ。  鳴り響く高いヒールの音が空しく響く。 (なんだろう、この気持ち……)  いつもと変わらない時間。  いつもと変わらない帰り道。  ――今日も一日が終わっていく。  ゆっくりと、確かな速度で私の人生のうちの一日を削り落としていく。  それはとても潔く、残酷で……。  けれどそんな現実に抗う暇もなく、私はただ風に飛ばされた花弁のように流されていく。  もがいても、無駄なことだと諦めながら。  人に与えられた時間というものは有限で、それをどう無駄なく浪費していくかを考えるほうが馬鹿馬鹿しい。  何者にもなれず、何物にもなれない。なりきることすらできない。  そんなちっぽけな自分(わたし)なんて、きっと――。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加