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「あなたの居場所はどこですか?」13
『次は、☓☓駅――。☓☓駅です』
電車の機械的なアナウンスにはっとする。
疲労と気疲れで眠ってしまいそうだった。
降り過ごさないよう慌てて気を引き締め鞄を持ち直すと、ちょうど目的地に着いたのか目の前の扉が開いた。
「ああ……、もう十二時回ってる」
天井近くにぶら下がった時計に視線を向けると、時刻はもう次の日になっていた。
無人の改札を抜け、静寂に包まれた駅内を一人、地上に向けて歩き出す。
カツコツ、カツコツ。
鳴り響く高いヒールの音が空しく響く。
(なんだろう、この気持ち……)
いつもと変わらない時間。
いつもと変わらない帰り道。
――今日も一日が終わっていく。
ゆっくりと、確かな速度で私の人生のうちの一日を削り落としていく。
それはとても潔く、残酷で……。
けれどそんな現実に抗う暇もなく、私はただ風に飛ばされた花弁のように流されていく。
もがいても、無駄なことだと諦めながら。
人に与えられた時間というものは有限で、それをどう無駄なく浪費していくかを考えるほうが馬鹿馬鹿しい。
何者にもなれず、何物にもなれない。なりきることすらできない。
そんなちっぽけな自分なんて、きっと――。
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