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「あなたの居場所はどこですか?」14
「随分と疲りた顔をしておりゃーニャ」
「そりゃあ、明るい顔なんてしてられな――え?」
暗く人気の無い夜道を、駅からコンビニに向かって歩いていた最中。
不意に話しかけられた声に、思わず足を止めた。
「なに……?」
少年のような子供の声。
だが自分以外の人影など見当たらない。ましてや、こんな夜更けに子供が出歩いているわけもない。
(ま、まさか……幽霊……?)
チカチカと不規則に明滅する街灯がいっそう不安を煽る。
恐る恐る、周囲を見回す。だがそこは闇の帷が静かにはためいているだけだった。
「そ、空耳……?」
「しっかり聞こえてるンニャ」
「だ、誰? どこにいるの」
「此処ですぅ、此処ですよう。オニャーサン……!」
「……おにゃーさん?」
妙な呼び方だ。
思わず声がした方向に視線を向けると、そこにいたのは一匹のトラ猫だった。
長毛でも短毛でもない、ちょうど良さそうなフカフカとした縞模様の毛並みに、薄緑色の瞳。一見変わったところもない、どこにでもいる野良猫――の筈だった。
「ね、猫が、喋ってる……」
「やぁっと気づいてくれたンニャ」
目の前に立ち塞がるトラ猫。
それは珍妙な口調で、わにゃわにゃと手招いていた。
「オニャーサンを、待ってたンニャ」
その仕草は妙に可愛らしかった。
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