「あなたの居場所はどこですか?」3

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「あなたの居場所はどこですか?」3

「シオ先輩、大丈夫?」  よほど私が疲れた顔をしていたのだろう。  同僚が声をかけてきた。 「工藤さん。大丈夫です、いつものことですし」 「本当に? あっ、チョコレート食べる?」 「わぁ、ありがとうございます。ちょうど甘い物が欲しかったから嬉しい」 「よし。甘い物ならいつも常備してるから、遠慮無く言いなさいな。シオ先輩は目を離すと根つめてるからねぇ」 「そうですかね? あまり自覚はないんですけど」 「そのほうが逆に危ないの。まったくもう」  腕を組み小さく溜め息を吐く同僚の姿を横目に見ながら、私は微かに苦笑した。  同僚の彼女の名前は、工藤かなえ。  彼女は私のことを先輩と呼ぶが、実は彼女のほうが年上だ。  彼女が私を先輩と呼ぶのは飽くまでも勤続年数の長さ故。  そんな後輩であり人生の先輩こと、工藤さんはそっと個包装されたチョコレート菓子を差し出してきた。  彼女も決して余裕がある訳ではないのに、こうしてちょっとした時に労ってくれる。  ありがたくて、嬉しい。だから、私は彼女が好きだった。  この張り詰めた戦場の中の、数少ない癒やし要素だ。 「お昼、食べに出る? それとも持ってきてたりする? 一緒したいなぁと思ってね」 「う……。すみません、一緒に食べたいのは山々なんですが。午後の資料作りがまだでして……」 「ありゃ、それは残念……。んー。それじゃあ、また今度ね」 「はい、ありがとうございます」  さらりと言葉を交わして、工藤さんは自席へと戻っていく。  その後ろ姿を一瞥してから、私は机の引き出しからブロックタイプの固形栄養食を取り出す。喉がつまりそうなモソモソとした食感を味わいつつ、お茶で胃の中に流し込んでいく。 (チョコレート味で甘めだから、なんだかご飯って感じはしないけど)  女性なんだから、とか。学生の食事じゃないんだから、とか。  弁当の一つや二つであれこれ言ってくる人もいたけれど。  今はもうどうでも良くなってきた。  食べている時間がもったいない。一分でも一秒でも。  私は仕事ができればいい。私生活を顧みている暇などないのだ。
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