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「あなたの居場所はどこですか?」6
🌸 🌸 🌸
人気の無い暗がりの中。
ボウと、朧気な光が一つ、浮かび上がった。
その光は橙色で、時折怪しく揺らめいては、すぐ傍にある人影を優しく照らしている。
「お疲れ様でございます」
落ち着いた柔らかな声が一つ響いた。
シンとした闇の中に溶け込むように消えたその声の主を一瞥すると、私は微かに瞳を細めた。恭しく頭を下げて言葉をかけてきたそれは、私のよく見知った顔だっだ。
「なんだい、起きて待っていたのかい」
「ええ。散歩に出ておられたようで」
「ああ。月が綺麗だったからね。満月を見ていたら、歩いてみたくなったのだよ」
「そうでしたか。……にしても、どこか嬉しそうで」
「少し、良いことがあってね」
「それはそれは……」
灯籠の優しい光が、ふわりと二つの影を揺らす。
「ですが、あまり夜遊びが過ぎては困ります。貴方様は我々にとって――」
「重々わかっているよ。だが、あまり小言は言わないでおくれ」
人差し指を口元に添え、悪戯っ子のような笑みを浮かべると私は奥の部屋へと歩き出す。その後ろを、音もなく付いてくる影が一つ。
「まったく、仕方のない御方だ……」
まだ何か言いたりないのか、ブツブツと文句が聞こえてくるが気にしないことにした。
「例の物は? きちんと仕上がっているかね」
「ええ。いい塩梅になっております」
「そうか。それは楽しみだ」
穏やかに笑っては、ウンウンと頷く。
じきに、××××だ。
それまでには満足のゆく出来に仕上げなければ――。
「……そうだ」
ふと、あることを思いつく。
「一つ頼みたいことがある」
「なんでしょうか」
傍らに控えていたそれに、私は言い放った。
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