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「あなたの居場所はどこですか?」7
🌸 🌸 🌸
ピ……ピピ。
「う……っ」
どこからだろう。
深く暗い闇の中から、私を呼ぶのは。
どこか聞き慣れたその音は、無慈悲で残酷だ。
ピピピ、ピピピピ……!
「うっさ……」
水底から浮かび上がるような、重い感覚に呻く。
重たい瞼を何度か擦ってから、私は枕元へと目を向けた。
時刻は朝の六時。
仮眠のような睡眠時間しか得られないまま、私は布団の中からなんとか抜け出した。
機械的にいつもと変わらぬ時間で身支度を整え、姿見の前で全身を確認する。
都会のOLらしく、皺一つないスーツに目立たない程度の化粧をして、随分とあか抜けたものだと内心苦笑する。
(あの二人が見たら、なんて言うだろう……)
高校を卒業してから一度も顔を合わせていない両親。
きっと、すっかり〝都会モン〟になってしまった私のことを笑うだろう。
臓腑を締め付ける不可視の糸に、思わず眉を寄せる。
(胃が痛い……鳩尾が、気持ち悪い)
ギリギリと、キリキリと、ツキツキと――錆び付いた身体に生まれる鈍い痛みに息が詰まる。
それはきっと、両親のことを思い出したからだろう。
決して、会社が原因で胃が不調を訴えているのではない。
大丈夫。私はまだ、大丈夫。いつも通りだ。
気づけば、時間は七時。そろそろ出なければならない。
トートバックを片手に玄関へ向かうと、ヒールを履く。
さあ、今日も一日頑張らなければ。生きていくために……!
「いってきます」
薄暗い部屋に、小さく声を投げかける。
応える人は、いないまま――。
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