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「あなたの居場所はどこですか?」4
🌸 🌸 🌸
「うーあー。終電、なんとか間に合ったぞ」
二十四時をとうに回った深夜。
コンビニ袋を片手に、ふらふらとした足取りで私は駅から家までの暗がりの道を歩いていた。別に酔っているからではない。定時の退勤時間はとっくに過ぎ、終電ギリギリまで仕事をしていたせいもあり、疲労困憊だった。
(今月の残業時間はいったいどれくらいだろう……)
毎月毎月、記録を更新しているような気がするのだが、きっと気のせいだろう。
「たまたま催事出店と常設店が重なっただけだ……。うん、だから仕方ない」
息が詰まるような感覚も、胸にのしかかるような重たい感情も、きっと気のせいだ。
たまたま息が詰まるような忙しさに追い込まれているだけだ。
普段より長く感じる道のりを歩きながら、私は暗く伸びた自分の影を踏みしめる。
「……にしても、もう真夜中かぁ」
ふっと空を見上げると、空には雲一つない。ただ独りぼっちの満月がポツンと浮かんでいる。春先なこともあり、夜はまだ冷たい風が流れている。思わず寒さに身を縮め、首元にストールをたぐり寄せた。
「まだまだ夜は冷えるな」
ほぅと、身体の中に溜まりきった淀みを吐き出すように溜め息をついた。
「なんでだろう……」
(月を見ると、なんだか泣きたくなってくる……)
別に、悲しいことがある訳でもない。
月が、私自身に何かした訳でもない。
なのに何故、こんなにも――。
ニャオン……
「え……?」
目の奥がじんわりと熱くなってきたその時、ふと聞き慣れた鳴き声が聞こえた。
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