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はじめに
霊子力学のスゝメ
諸君。人は三位一体である。
キリスト教的なソレではない。
肉体と、霊体と、そして魂から出来ている、ということである。
肉体は言わずもがな、であろう。
では霊体とは何か?
それは我々生命の持つもう一つの体である。
霊体は肉体と同じようにして形作られており、肉体に重なるようにして、常に我々の殻としてここに存在しているのである。
信じられないだろうか?
それはそうだろう。目にも見えず、手にも触れられぬ霊体は、これまでオカルトの分野でしかなく、幻想としてしか語られてこなかったのだから、まぁ無理もない話である。
だがッ、しかぁ~しッ。
それは特殊粒子・霊子の発見により、霊体はここに確かな証明を持って顕現したのだ、と、私は断じようではないかッ。
例えば、掌を開いて顔の前に持ってきてもらいたい。そうだな、だいたいにして二十センチくらいのところだろうか。
そして、掌の向こう側の景色に焦点を合わせて頂こうか。
どうだッ。
ぼやけた掌の輪郭のところに、不思議に漂う湯気のような存在が見えたであろう。
いや、見えないという言葉は受け付けないのであしからず。
つまり、それこそが霊体なのだ。
いや、眼球の焦点移動に伴う錯覚ではない。確かにこれまでの科学ではそうとしか断じられてこなかったことなのだが、それは間違いなのだ。
まぁ、学術的に正しく言うならば、視界の中で焦点の当たらない場所というのは無意識性が強く、それだけに霊子を認識する霊的感覚が強く出るという特性がある。これは学術的には、数ある霊体活性原理のウチの一つで、無意識化の霊体感覚の活性と呼ばれる事象なのだが、それによって肉体に重なっている霊体の輪郭を、漠然とながら感じることが可能になったという、つまりそういう霊子理論の初歩的アクションなのだが、云々……。
いや、失礼。
小難しい話は、今後の講義で行うとして……。
つッ、まッ、りッ。
つま~りッ、それこそが、霊体ッ。
そして、霊子ッ。
繰り返そうッ。
霊子とは、質量も定型も持たない、さらには常態では不可視なる特殊粒子である。
つまり物質にあらざる存在にして、しかし物質よりも確かに存在する、世界の根源要素である。そしてそうした霊子によって構成された、物質ならざる体こそが、霊体なのであるッ。
どうだ。理解していただけただろうか?
肉体と霊体、それは対になりながら、同価値の存在として、確在しているのだ。
おっと…。
霊体の説明で熱くなってしまったが、忘れてはならない。
三位一体の最後の一つ。
それは、魂である。
魂とは、つまり生命の根源にして、肉体と霊体、双方の原動力たる存在である。
コレを実感してもらうことについては、うぅむ、多少難しいな。言ってしまえば、魂とは命そのものであって、とにかく形のない根源であるため、さきほどの霊体のようにはいかぬのだが…。
そうだな。強いて諸君等に魂を感じてもらうのならば……。
いざッ、諸君ッ。胸に手を当てたまえッ。
瞬間に何かを想い感じたであろうッ。
ならばッ、その想いを全力で叫びたまえッ
夕陽に向けて、明日に向けて、いざッ、叫びたまえッ。
つまりこれが魂なのだッ。
魂は根源ッ。
以上ッ。
………………。
……すみません。睨まないでください……。
いや、無茶は私も承知の上なのだ。
だって、しょうがないのだよッ、というか、だから事前に難しいと言っていたじゃないか、私はッ。だって魂というのは、概念上、理論上でしか証明がなされていない代物なのだからッ。
と、に、か、く、だッ。
まとめれば、根源たる魂を元として、生命は二つの慨形を持つ。その一つが我々の良く知る肉体であり、もう一つが霊体なのであるッ。
そして、霊体の特性と、その構成要素である霊子の特性を学術的に解析し、生活への転用を目的とする学問こそが霊子力学なのであるッ。
そう。霊子力学。
10年前。私、鴉谷ケルディウム3世によって発見されし霊子の存在は、ここにオカルトの域を脱し、正当なる学問として成就した。
確かに年季は浅く、認知も薄い学問ではある。
しかし裏を返せば、それは今後の発展が大いに期待できる学問ということだ。
霊子力学の発展は諸君等の努力にかかっている。
勉強したまえ。
霊子力学を使えば、これまで科学によって幻想と虐げられてきた数々の事象を論理的に解明することが出来る。
私は信じる。魔法も、怪奇も、奇跡も……。
そして神も……。
霊子力学は……。
我々の未来は、きっと、それら全てを解析することが出来るのだ。
ここ神薙大学霊子学部はそれを可能にする、日本で唯一の存在である。
歓迎しよう。
いざ。諸君。霊子力学とは『神域へのプログラム』と知りたまえ。
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