明晰夢の見方

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 由美の事故も、同じ状況だったのだろうか。  四十代の会社員という男性も、多忙のせいでちゃんと睡眠がとれていないまま車で出社せねばならず、運転中にうとうとしてしまったのだろうか。  ドライヤーで髪を乾かし終え、パンツ一丁のまま歯を磨きながら、気がつくと嫌な考えに浸っていた。  思い出したくないことを思い出さないのに、忙しいのは効果的である。  だが、一日中ずっと忙しい防御壁に守られているわけではない。  しかしこの苦悩も、見たい夢を見るために必要な要素だろうから仕方ない。  和樹はスエットを着ると、ベッドに横になって布団を体に絡めた。  時計を見ると、ちょうど3時。  リモコンで電気を消した。  明晰夢というらしい。夢だと自覚しながら見ている夢のことだが、夢の中で思い通りに行動したり、夢の内容を変えたりできるのだ。  晩御飯を食べて質の悪い睡眠をとった後、3時前に風呂に入って歯を磨き、3時にちゃんとした眠りにつこうとすると、明晰夢を見ることができる。同じ行動をとった人の大半がそうなるとは限らないと思うが、和樹にとっては非常に相性の良い条件なのだろう。  夢を見るのがそもそも浅い眠りである。  3時に寝ても6時半には起きなければならないなどと考える一方、機能しなくなった防御壁からとめどなく溢れる思い出や会いたい感情に脳を支配されながら寝落ちしていれば、なるほど、疲れを和らげる深い眠りになんてつけない。  でも、それでいい。 「和樹」  愛しい声がした。  もう会うことのできない、由美に会えるのだから。
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