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灰色の靄が張り詰めた空間。
後ろを振り返ると、優しく微笑んでいる由美の姿があった。
艶やかなショートヘア。首元には、大粒のダイヤが付いた筆記体の「y」のイニシャルのネックレスが輝いている。
慣れさえすれば、自分の脳にこれは夢だと気付かせることは容易い。
由美を不慮の交通事故で失ってから半月。
吐き気を伴う悲しみに明け暮れ、泣きながら眠る日々を重ねるうちに、由美が夢に現れるようになった。
最初の数日は、由美が車に轢かれる夢だった。
無我夢中で助けようとしたが、そのときは夢と知らなかったせいか、何度も目の前で由美を失った。「由美!」と叫んでは二人がけの座椅子から飛び起き、電気やテレビは点けたまま、スーツも着たまま汗だくで、虚無感に打ちひしがれたものだ。
しかし一週間ほど前のある日、今日のように晩飯後の仮眠から目覚め、風呂に入って3時に再び眠りについたとき、同じ悪夢を、単なる夢だと気づくことができた。
ただ、夢でも由美を助けたい。
強く念じて由美に飛びつくと、由美は助かった。
そのときの固い抱擁はものすごく現実的で、今でも胸と腕にその感覚が残っている。
夢から覚めても、また同じ方法で由美に会える気がした。
その予感を秘めた願いは叶い、由美を事故から救ってからの場面を、連続的に夢に見ることができている。すなわち、見る夢は前の夢の続きで、明晰夢の中で由美と暮らしている。
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