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念じると、由美以外に何もなかった灰色の無の空間は、暖かい色使いのリビングに変わる。
今の和樹の部屋はこれから二人で暮らすには狭すぎるからと、色々マンションの内見に行った際、由美が一番気に入った部屋だ。
今ここにある家具や家電は、和樹や由美が持っているものや買い揃えたいものを、部屋の間取り図を元に二人であれやこれやと配置を考えたのが、具現化された結果である。
新しく買うつもりだった50インチのテレビの前には、和樹の部屋にあるブラウンのローテーブルと、由美が最近衝動買いしたというグリーンのソファが置いてある。
休日の設定。お菓子作りが得意な由美が焼いたパウンドケーキと、和樹のこだわりで買ったスターバックスのコーヒーを、ゆったりと過ぎていく時間に身を任せて口に運ぶ。
テレビを点ける必要はない。由美を現実で失ってから気づいたが、会話が途切れても、由美がそばにいるだけで気分は明るくなり、疲れは和らぐ。
由美のしとやかな横顔が、最高の癒しである。
「また明日も、朝早くに出社するの? 上司に隠れてタダ働きしてるんでしょ」
「仕事が終わらないんだ。でも残業しちゃいけないって言われるし」
「仕事、他の人に引き取ってもらえないの?」
「みんな忙しいんだよ」
「大丈夫? 無理してない?」
「大丈夫。土日はちゃんと休めてるから」
「無理、しないでね」
「ありがとう」
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