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由美の実体も体温も香りも、溶けてなくなるように消え、絶望に苛まれる。
スマホの画面を殴るようにタップして、スヌーズ機能で五分後にもう一度鳴るようにする。
丸まった布団を抱きしめ目を閉じると、うっすらと由美の感覚が戻ってきた。
目覚めてからは、死んだように車で会社へ向かい、仕事を淡々とこなして車で帰ってくる。
夢の中で由美に会えればそれでいい。
気づくと、またスーツを着たまま、二人がけの座椅子で気を失うように寝ていた。食べた記憶もないコンビニ弁当の残骸とビールの空き缶が机上に置いてある。
午前1時前。いつもより早い。テレビでは大勢の芸人がスタジオでガヤガヤ騒いでいる。
もう一寝入りしようかと思ったが、由美が好きだった芸人がテレビに映っているのに気づいてから、目が覚めてしまった。
スーツの下も汗でベタベタだし、とりあえず風呂に入って3時までダラダラ起きていよう。
シャワーを浴びている間は、仕事のことで頭を満たす。
朝出社したら、今日の21時までにできなかったT社のプログラムを修正して、午前中にメールで完了連絡をしなければならない。
T社の納期はいつも翌日の午前中までだ。夕方に依頼してきてよく言う。
しかし、これが終われば当分T社からの依頼はないだろう。その間にB社とK社のプログラムの大規模改修に着手してーー
風呂から上がり、歯磨きをしながらテレビを見ることにした。
画面はニュース番組に切り替わっていた。最近の交通事故についての特集だった。論点は事故を起こした運転手の過重労働疑惑だ。
由美の事件も、それら複数の事件の一つに過ぎない。
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