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まただ。
社会人歴五年の斉藤和樹はスーツのまま、二人がけの座椅子に横になった状態で目覚めた。電気もテレビも点けっぱなし。
『このオールインワン美容液、通常一本3,000円のところ、なんと、二本で4,450円。4,450円でいかがでしょう』
『すごーい、信じられなーい! でも、なんとかもうひと超え……』
『いやー、これ以上は』
『そこをなんとか!』
『分かりました。では、持ち運びに便利なミニサイズを二本お付けしましょう。さらに、今から30分以内にお電話いただいた方には、通常サイズをもう一本サービスしちゃいます!』
『お値段は?』
『もちろんそのまま、4,450円です!』
製造会社の男性社員と、通販番組以外には見なくなった80年代アイドルの女性タレントとのやりとり。どうせ台本だろと思うが、つい先月、この番組でやっていた、大粒のダイヤモンドがついたイニシャルのネックレスを、思わず買ってしまった。
チェーンもプラチナで、39,800円でも安いと思うのに、30分以内に電話したら一万円引きの、29,800円。
2時を過ぎたこんな深夜に、コールセンターで働いている人も大変だなと思いながら電話をかけると、やけに明るい女性の声が応答したのをよく覚えている。
通販番組で買い物をするのがこれが初めてだったため、ほんとうに電話が繋がるのかいささか不安だったが、ちゃんと人との会話の上で注文ができたことに感動した。それでいて無駄な会話がなく、気持ちいいほどやりとりがスムーズだったため、いい商品があればまた電話するのもいいだろう。
だが、次からは自分用だ。といっても物欲がないから、次は大分先になるかもしれない。
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