不思議と潰れない本屋のからくりミステリー

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「お婆ちゃん、そんなこと言わないでよ」 「爺さんが亡くなってから一人でやってきたけど…… 最近一人じゃ辛くなってきてねぇ」 「そう言えばここじいじから受け継いだ店だったよね」 「そうや。あたしゃ本屋に嫁に入ったんだよ」 文夏は有鹿と話していてあることに気がついた。長時間、話をしているのにその間誰も客が来ないのだ。 「この店、全然お客さん来ないね」 「ああ、毎日こんなもんじゃよ。目の前に駅あるじゃろ? そこにでっかい本のチェーン店がテナントに入ってな、駅から降りて本買うような人はみんなそっちに行ってまう、それに近頃はいんたぁねっとと言うのでお家にお届けするようになってまった」 文夏はこの店大丈夫かなと危機感を覚えた。もしかして有鹿が介護要員を確保するために文夏を担いでいるのでは無いかと不安になるのであった。 「ばあばも動けなくなったら養老院に行かないかんかもしれんしのう。そうなったらこの店誰もいなくなってまうでなぁ」 「え? 養老院って?」 「すまんの。今の若い子は養老院って言い方はしないんじゃったの。老人ホームのことじゃよ」 動けなくなったら自分から老人ホームに行くと言うところ、自分の息子夫婦や孫に介護をアテにしている雰囲気はないのは明らかであった。有鹿は歳をとったら子どもに面倒を見てもらおうと言う気は全くない考えの持ち主である。 「いいと思うんだけど…… お店のお手伝い? 給料とか出ないでしょ?」 「なぁに言っとる。働いたらちゃんとその分お給金を払う。これ社会の常識じゃよ。えっと…… 毎月手取りで28万ぐらいでええかの?」 28万円と言う額を聞いて文夏は腰を抜かしそうになった。手取りにすればもっと下がるかもしれないがこれでも28万円と言う額は同世代の新卒社会人よりは多い額故に文夏にとっては魅力を感じるには十分であった。 「大丈夫なの? これお婆ちゃんの年金一発で飛ぶんじゃないの?」 「いやいや。ちゃあんとこのお店の売上から出せるもんじゃよ」 「お婆ちゃん、何か変なもの売ってるんじゃないの? 拳銃とか……」 「探偵小説や警察小説みたいなことはしとりゃあせんよ」 「じゃあこの店の年間売上どんなもんよ」 有鹿は店内にいるにも関わらずに手招きをする。耳打ちをさせろと言う合図であった。他に聞かれたくないのだろう。 「……」 有鹿が言った金額に文夏は腰を抜かした。ちょっとした企業の年商ぐらいは稼ぎ出している金額を聞いてただただ震え上がることしか出来なかった。 「この辺り土地でも高いの? 駅前だし」 まず考えたのは土地の家賃収入であった。もしくは店の前に設置されたジュースの自動販売機の収入だろうか。 「色んな学校もあるし駅も近いから土地は高いし駅前で人通りもあるから店の前でジュース買ってく人も多いよぉ。しかし、ここは地方都市だからこんなにいい値段はつかんし、ジュースの方もお小遣い程度しか稼げんよぉ。だから、本当にこの店の売上だけでこの額を売り上げとるんじゃよ。だから文夏ちゃんに毎月28万円で働いてもらうことも出来るんじゃよ」 「一体、何やってるの?」 有鹿はしーのポーズを取った。 「これは企業秘密じゃよ。従業員になったら教えてあげるよ」 文夏はその場で有鹿の本屋の店員になることを決意した。
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