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エピローグ
文夏がダンテ書店に勤めて一年が経過した。一年が経過しても文夏の仕事は一切変わらない。毎日のように朝は配達、昼から夜にかけてはカウンターで時々来る客に対応することしか仕事はなかった。変わったことと言えば看板犬の役目も果たさず(?)にカウンター脇で伏臥の体勢でずっと眠る影兵衛が増えたことと、店の奥の居住スペースに鎮座するのが有鹿から宏昌に変わったことぐらいだろうか。
有鹿は文夏が結婚して程なくして老人ホームに入った。文夏がダンテ書店を継がなかったら店を閉めて初めからこうするつもりだったので予定調和と言ったところである。店長の座は文夏に譲っている。
宏昌はずっと店の奥でカタカタと小説を書いている。摩訶不思議小説大賞を取った驚愕鎧の暗黒異世界漫遊記だが、宏昌が編集に「終わらせたい」と言ったところ「冗談じゃありません」と、シリーズ延長を通告され、彼の思う主人公結婚エンドには未だに辿り着いていない。今では毎日頭を掻きむしりながら中世暗黒時代の少ない資料とディストピア小説をノートパソコンの脇に置いて頭を掻きながら執筆活動に入っている。
そんな宏昌ではあるが本屋の仕事も手伝ってくれてはいる。小説家という職業柄あまり外に出ないモヤシのような青白い肌ではあるが一応は男、力仕事では頼りになる。
本の持ち運びを積極的に手伝ってくれるだけで文夏は助かるのであった。
毎年恒例の小中高大の教科書販売が終わった。これでまた一年ダンテ書店は戦えると文夏は安堵するが、その数倍を平然と稼ぎ出す売れっ子作家の宏昌がいるために、前に数千万を稼ぎ出した時程の感動はない。悪い言い方をすれば生活よりも半分趣味で店を開けていると言う状態になっていた。
そんな中、学が店にやってきた。青みのかかった背広を思わせるブレザーを纏っていた。
念願の私立中学に合格したのである。中学生になって多少の自由が許されるようになったのかダンテ書店への出入りが許されたとのことであった(禁止令などあってないようなものであったが)今ではダンテ書店の常連となっていた。
「こんにちわー! おねえさん!」
「いらっしゃい。アレ入ってるわよ」
文夏はカウンター裏の戸袋より週刊ソロモン72柱第二号を取り出す。二号めは第一柱バアルのフィギュアとなる。学は愛読している驚愕鎧の暗黒異世界漫遊記でソロモン王72柱のことを知りすっかりハマってしまったのだ。それ故にこの4月から発売となった週刊雑誌ソロモン72柱、全73号を買うようになっていた。
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