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紙一重の差、されど、大きな差
「キャー!」
「ガーくーん」
「かわいいーー!」
突如沸き起こった黄色い声と、一斉に振られる赤のペンライト。そしてスクリーンに映し出されたのは気味悪いゾンビでも、今にも幽霊が出てきそうな朽ち果てた牢獄でもない……というよりそもそも実写の映像ですらなかった。
映し出されたのはアンティークものの家具が置かれたリビングルームのアニメ映像。窓の外には明るい緑色で覆われた中庭が広がっている。そこに赤い髪をしたスレンダーな美少年が現れた。
「やあみんな、こんにちは。レッド・プリンスの赤岩です」
「こんにちはー!」
「ガーくん!会いたかったよー!」
「キャー!」
赤岩とかいうそのキャラクターが一言挨拶をしただけでその何十倍もの歓声が飛び交った。ポカーンと口を開けている僕を尻目に赤岩はさらに話を続ける。
「今日はレッド・プリンスのスペシャルライブ上映に来てくれて本当にありがとう!」
え?スペシャルライブ上映?
僕の頭の中にある混沌と混乱がさらに回転速度を上げていくのを尻目に、周りは銀幕に向かって盛大な拍手と歓声を送っている。
ーー絶対におかしい!
僕は真っ暗なシアター内に浮かぶ赤い光を頼りにバッグにしまっていたチケットの半券を取り出す。そしてそこに刻まれている印字を確かめた。
「マジか……」
僕の口から不意にその3文字が零れた。
チケットに書かれていたのは
4-J
19:30上映
レッド・プリンス
の文字。
ーーよりによってレッド・プリズンとレッド・プリンスを間違えるなんて……
僕が頭を抱えている中、銀幕の中にいる赤岩はスペシャル上映についての注意事項などを説明している。それに相槌を打つかのように
「うん」
「オッケー!」
「わかった」
などと度々女性の声が飛び交った。そして一通りの話が終わったところで画面が切り替わり、テーマ曲が流れ始めた。スクリーン上で5人の美少年が歌い踊る中、シアター内では赤いペンライトが縦に横にと振られ、まるでアイドルが出ている紅白歌合戦の客席を見ているかのようである。全米最大の恐怖はドコへやら……僕は自分がやらかした今世紀最大の凡ミスに思わず天を仰いだ。
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