全米が震えたホラー映画?

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全米が震えたホラー映画?

 燦々と照りつける太陽。都会のアスファルトはその熱を容赦なく照り返す。僕は滝のように流れる汗をタオルで拭いながら高層ビルの中へと駆け込んでいった。仕事終わりの夕方7時22分。映画館の自動券売機をタッチすると、 「レッド・プリンス 空席残りわずか」  の文字。 「間に合った!」  僕は思わず漏らす。 「真紅の牢獄の呪いに全米が震えた」  このキャッチコピーを見て以来、僕はレッド・プリズンの封切りを今か今かと待ち望んでいた。酷暑の中での背筋が凍るような最恐の体験。三度の飯よりホラー映画が大好きな僕はこれを見ないと夏を始めることすらできない。だから今日僕は倍速で仕事をこなし、封切り初日の最終上映に間に合うよう走ってこの映画館にやってきた。  僕が座ったのは前から4列目の中央よりほんの少しだけ右側の席。もう少し後ろ、シアター中央の席で見られたらとは思うが、贅沢は言うまい。大迫力のホラーをこの位置で見られるかと思うと胸がワクワクしてくる。  上映3分前。アニメ映画の予告映像が流れる中、ポップコーンやドリンクを片手に持った人々が続々とシアター内へと入ってくる。観客の9割近くが若い女性。最近のホラー映画は女性に人気なんだなぁと僕は目を丸くした。僕の席がある列はあっという間に埋まり、談笑する声が傍から聞こえてくる。 「あ!そろそろだよ!」  隣の女性がそう発した瞬間出入り口の非常灯が消え、シアターは暗闇に包まれた。ビデオカメラの被り物をした男が踊りながら映画の盗撮禁止をPRする動画が流れる。これが終わればついに全米が震えた映画の幕開けだ。僕の胸の鼓動は徐々に速くなり、期待は最高潮になった。  その瞬間、僕の周りから一斉にガサゴソと鞄をまさぐる音が聞こえ始めた。 ーーいったい、何だろう?  不思議に思いながら銀幕を見つめていると、ほんのりとした赤色が反射するのが見えた。僕は辺りを見回す。するとそこに見えたのは赤い光。棒状のものから、星型のもの、そしてリングのようなもの……光は一つ二つと増えていって、映画泥棒禁止の動画が終わる頃には真っ暗なはずのシアターのいたるところが赤く照らされていた。 ーー何かが、おかしい……  僕は明らかに違和感を覚えていた。そしてその違和感は数秒後、確信へと変わることになる。
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