『かさあさん』(お父さん、のリズムで)

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玄関の開く音がし、母が帰宅した。 「南菜都(みなと)ー? 帰ってるのー?」 いけない、そう言えばこれは、母か父の傘かもしれない。というかそうだろう。母のものならばすんなり貸してもらえるが、父のものだと、ちょっと難しいかもしれない。 私は一度、傘を開いてから、母に確認を取ろうと思った。 「帰ってるよー! お帰りなさーい!」 私は大声で返事をしながら、傘を開いた。 傘の内側で、大きな瞳が二つ、まばたきをした。 「うっぎゃあああああああああ!!!」 「うっわああああああああああ!!!」 私は傘を放り投げる。傘も同時に、ちょっと跳ねあがって私のベッドに着地した。 「南菜都ー? どうしたの大きい声だしてー?」 「マ、マ、マ、ママ! 傘が! 傘が喋って目が合った!!!」 ノックをしながら母が部屋に入ってくる。 「なーに? 傘がどうしたの……? あら? その傘、パパのじゃない。懐かしいわねー」 母がひょい、と開いたままの傘を持ち上げ、自分の頭の上で差した。 「ママ! その傘目がある! 差さない方がいいって! 内側!」 私は傘の内側を指差した。母は見上げるが、内側には何もない。 「なーにー、南菜都、目なんてないじゃない。虫か何かと見間違えたんじゃないの?」 母はクルクルと傘を回した。 傘の外側、雨粒が当たる位置にある瞳が、漫画のように眼を回していた。 い、い、い、移動も出来るのかよ!!!
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