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その日は一日中ワニと錦鯉の事しか考えられず、授業が終わったら弾丸のように家に帰宅した。
玄関を開け、靴箱の扉を開く。
普段は履かないよそ行きの靴や夏のサンダル、いくつかのシンプルな折り畳み傘の中で一つ、異彩を放つ物が鎮座していた。
「……あっっっった………」
先輩の持っている物と全く同じ、ワニと錦鯉の彫りこまれた、独特な持ち手の折り畳み傘だった。
これは勝つ。これは勝てる。
私は自室に傘を持ち込んでほくそ笑んだ。
次の雨の日に傘を出した先輩の横で、私も傘を開く。そして、
『あれっ? 先輩、偶然ですね! その傘、私も同じのなんです』
すると
『本当だ、運命だね。ところで君の名前は? 実は前から君の事気になってたんだ』
と言う風に話が進む。これはもう運命だ、もう間違いない。
私は学習机の上に傘を置くと、ニヤニヤニヤニヤ笑った。
母が帰ってくるまでに、私は妄想の中で先輩と結婚を前提とした交際を始め、大学卒業を期に同棲を始め小さなアパートで子犬を飼い、錦鯉とワニの彫られた木製の指輪を交換しあっていた。
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