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それから数度、今は内側! 今度は外側! と私が教えながら傘の目の位置を伝えるけれど、母には確認出来なかった。
「なーにー南菜都、ママをからかってー」
部屋で傘を差す母と、その母の上で、目は、とにかく何かを訴えていた。
これは、分かる。
ママには黙ってろ、の顔だ。
「南菜都、これね、パパが若いときに差してた傘なの。使うのはいいけど、壊しちゃダメよ」
母はパチンと傘を閉じると、私に差し出した。持ち手は独特なのに、傘の色は紺色の、普通の色の傘。二段階調節が出来、普通の傘の形にも保てるし、コンパクトに収納も可能なやつだ。
私は恐る恐る、傘を受け取った。
「そうそう、ちゃんと帰ってから、パパのお仏壇に手を合わせた? ナムナムしないと、パパ寂しがっちゃうよ?」
手の中の傘がピクリと震えた。
そのあとママから見えない位置が、生温い水で湿ってきた。
手の内側が、ぬるい。
母は私に軽く注意をすると、部屋から出ていった。
私は、なんとなく傘の正体が分かった気がしてきた。
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