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私は傘を開いて、ベッドの上に乗せた。
ベッドの上の二体のぬいぐるみと私、合計六つの瞳が傘を見つめる。
「…………」
「…………」
傘は、さめざめと泣いている。ヒン、ヒンという声と、鼻をすする音がした。
鼻はどこにあるんだろう。
「…………、もしかして、パパ?」
傘の泣き声が止まる。
「…………、良く、分かったな……」
傘は、「ゴメンちょっとティッシュ取って」と言い、私から手渡されたティッシュを傘の内側に巻き込んで、鼻をかむ音をさせた。
「……南菜都、大きくなったなあ……すまんな、急に泣いて。ママが仏壇に手を合わせてくれてる事を改めて知れて、涙が止まらなくて……」
傘の外側に移動した眼が、少し細くなって、笑ったようになった。
コミカルな眼になっているけれど、仏壇にあるパパの写真の瞳と、良く似ている気がする。
「こんな形だが、会えて嬉しいよ……。俺が死んだとき、南菜都はまだ、ちっちゃかったからなあ」
こんな形が、まさしく形状を示しているパターンは初めてだ。
「……パパ、なんで、傘なの……?」
「すまん、それは、俺にも分からん」
「一応聞きたいんだけど、今までずっと、靴箱の中で意識があったの……?」
「いや、そうじゃない。……こう言うの、現役女子高生の前で言うの滅茶苦茶恥ずかしいんだが、一応、天国というところに居たら、声が聞こえたんだ。『貴方には、下界に戻る権利と使命が与えられました』……ってな。そしてそのまま光に包まれて、気がついたら南菜都の前に居たんだ。冗談みたいだろ」
傘に父親が乗り移るより冗談みたいな事ってあるんだろうか。私は思った。
「でもそれなら、ママに名乗りあげたらいいのに。ママきっと喜ぶよ」
「馬鹿言うなよ! 若くして亡くした夫が、傘になって会いに来るとか嫌すぎるだろ! ……ママの中のイメージを崩したくないんだよ……」
パパにはパパなりに、プライドがあるらしい。
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