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感情を捨てろ。
それが先生の教えだった。
どんな状況であっても、決して感情的になってはならない。
たとえ殺す相手が女であっても、子供であっても、無情であれ。殺しには一瞬の躊躇いもあってはならない。
感情を捨てろ。
まるで呪詛のように繰り返された言葉は、いつしか身体中に染み込み、馴染んでいた。
いや、本当はまだどこかに抗う意志があったのかもしれない。
しかしそれは、これまでに殺してきた人間の血を浴びるたびに埋もれ、奥へ奥へと追いやられてしまった。
今はもう、手にするどころか探し出すこともできない、砂漠に落ちた一粒の砂のようなちっぽけな意志だ。
目の前に転がる血に塗れた名も分からない男を見下ろし、視線を逸らす。
見上げた空は、灰色の絵の具を厚塗りしたように曇天だった。そこから光が漏れることはない。
ただただ広がる、一面の暗がり。
今にも雨が零れ落ちそうでいて、カラカラに乾いているようにも思えるその空を眺め、少年はふっと、息を吐いた。
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