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彼とは王宮で何度かすれ違ったことがあったのだ。
覚えてくれていたことに安堵を覚える。
「第二王子の側近、ミシェル・アーノルドだ。君の名は、テオといったな」
またもこくりと頷かれる。
「まずその怪我をどうにかしよう」
平然としていられるのが不思議なほど、テオは血塗れだった。
その幼い体には不釣り合いな姿に、こっちが先に参ってしまいそうになる。
「怪我はしていない」
「え?でもその血は……」
「殺した相手の血だ」
なんの躊躇いもなく、平然とテオは答える。
またも鋭い痛みが胸を襲った。
「……でも、車には乗ってくれ」
「王宮は、すぐそこだ」
初めて少年の顔に表情が見えた。
不思議そうに言葉を返す少年に、ミシェルは静かに告げる。
「王宮には、もう戻ることはないよ」
それは俺も、同じことだ。
「言い忘れていたが、俺は元、第二王子の側近だ」
僅かに瞠目した少年に手を差し出し、ミシェルは憂いを帯びた笑みを浮かべた。
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