一章

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 彼とは王宮で何度かすれ違ったことがあったのだ。  覚えてくれていたことに安堵を覚える。 「第二王子の側近、ミシェル・アーノルドだ。君の名は、テオといったな」  またもこくりと頷かれる。 「まずその怪我をどうにかしよう」  平然としていられるのが不思議なほど、テオは血塗れだった。 その幼い体には不釣り合いな姿に、こっちが先に参ってしまいそうになる。 「怪我はしていない」 「え?でもその血は……」 「殺した相手の血だ」  なんの躊躇いもなく、平然とテオは答える。 またも鋭い痛みが胸を襲った。 「……でも、車には乗ってくれ」 「王宮は、すぐそこだ」  初めて少年の顔に表情が見えた。  不思議そうに言葉を返す少年に、ミシェルは静かに告げる。 「王宮には、もう戻ることはないよ」  それは俺も、同じことだ。 「言い忘れていたが、俺は元、第二王子の側近だ」  僅かに瞠目した少年に手を差し出し、ミシェルは憂いを帯びた笑みを浮かべた。
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