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【※フィクションです。実在の人名とは一切関係ありません】
小説を読むのが好きだ! 私は、小説投稿サイトを利用している。
面白いと思った作品に、スターを送り、コメントを書くのもまた楽しい。
最近プライベートな時間が取れ、一気に長編小説を書き上げた。A出版社へ文学賞の公募作品として郵送で投稿した。
果報は寝て待てだ。小説投稿サイトで、他の方の作品を探しては読む。
面白い作品を見つけた。C02《シーゼロツー》さんという方の作品だ。作品世界に引き込まれ、一気に最後のページまで読む。
リズム感があり、個性的な文章。語彙が豊富で表現力も高い。文字なのに、まるで、頭の中に光景がイメージされて行く。
主人公や登場人物は魅力的で、セリフ回しも巧みすぎる。私と違って、ストーリの展開もうまい。読んでいて、美しい詩のようなリズム感さえある。
私は必死に作品の粗を探した。しかし、どこにも欠点と呼ぶべき所はなかった。
C02《シーゼロツー》さんに、小説投稿サイト内メールを書く。
「前略 ハンドルネーム、C02《シーゼロツー》様。私は黄金孔明です。あなたは素晴らしい作品を書きます。しかし、私はあなたのことが嫌いです。理由は、私より素敵な作品を書くからです。作品を何度も読み返しても、作品に短所は見つけれませんでした。
つまり、私はあなたを、妬んでいます。
言い訳できない短所を、必死に探しましたが、作品は素晴らし過ぎでした。ただ、私があなたの作品にコメントを書きましたよね?
〈面白いです〉
それに対しての返事で、次の文章で応じました。
〈面白いと仰ってくださり、励みになります。お読みくださり、ありがとうございました〉
私はあなたを励ますつもりで、書いたのではありません。ただ、「面白い」と伝えたのみです。
猛烈に苛立ちました。
私のコメントを否定されたと、感じたからです。嫉妬《しっと〉に火がつきました。やっとあなたの欠点を見つけた安堵もありました。
私はあなたを妬んでいます。やっかみです。それが、あなたを嫌いな理由です。
もし、欠点を直したら、絶対ほかの欠点を見つけて妬んでやります。敬具」
送信してやって、清々しい。
C02《シーゼロツー》さんの、プロフィールページを見てやった。
“書籍発売中”と書いてある。私は食い入るように、プロフィールを一字一句読む。
C02《シーゼロツー》は、小説投稿サイトでのみのハンドルネームだ。
え、柏尾二郎先生!
普段小説を読まない方でも知っているほどの、高名な作家さんだ。
私も柏尾二郎先生の大ファンだ。新作が出る度、書店で予約して買っている。
しかも、私が応募したA出版社の新人賞で、審査委員長をしている。
急いでサイト内メールを送信した。
「すみません。さっきのメールは、冗談です。お気づきでしょうが、わたし冗談キツいんです。しかしながら、言い過ぎた冗談でした。どうか、お許しください」
***
CO2《シーゼロツー》こと柏尾二郎は、小説投稿サイト内のコメントや、サイト内メールを読んでいた。
黄金孔明のメールにも目を通す。“アンチもファンだ”が、彼の価値観だ。件名が“あなたを嫌いな理由”のメールも、熱心に一字一句目で追う。
読者は貴重な時間を使って作品を読んでくれたのだ。返信のサイト内メールには、「私の作品を読んでくださり、ありがとうございまいした」と書いた。
いつも読者には、感謝の気持ちを忘れないでいる。送信をクリックする表情は、どこか、怒りを押し殺したようでもあった。(完)
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