4章

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4章

群馬県北部 八流山の南西、旧飯舘町付近―― 見えなかった五メートル先の景色がぼんやりと開けはじめ、朝が近付いているのが分かった。 自らの上着を被せ、背中で眠るイツキもいくらか回復したようで、兼士は一つ安堵していた。 集会所のあった山間から数キロ南へ進んだ場所で半壊した自動販売機を発見した兼士らは、中に残っていた飲料水でようやくの水分補給を取ることができていた。 食料は未だ手に入らないものの飲料水の効果は凄まじく、スポーツドリンクを口にしたイツキの血色は目に見えて改善した。それでも体力の低下は著しく、歩くことはおろか、会話すら叶わぬままだった。 「兼士本当に大丈夫!? イツキちゃんと水まで担いで夜通し歩くなんて、今度は兼士がどうにかなっちゃうよ」 「俺は大丈夫。それよりそろそろ日が出そうだし、休める場所を探さないと。睦月だってまる二日近く寝てないんだ、そろそろ辛いだろ」 「そんなこと言ってられないよ。栄瑠や出光先輩だって頑張ってるのに」 精神的な落ち込みは酷いものの、出光と栄瑠もどうにか自力で二人に続いていた。しかし時折目は虚ろに揺れ、心がそこにあるのかすら分からなかった。 「明るくなってきた。ほら睦月見て、あの大きな木の先、やっと山を抜けそうだ」 山道を進むにつれ、直接的な被害の影は減った。しかし反対に人が生活していた形跡もなく、元より山林に作られただけの道だったのを想像させた。 針葉樹一色だったこれまでと景色が一変し、深く根を張った竹の濃色へと変貌を遂げる。飛ばされず残っていた一帯の様子に、兼士らの足取りは自然と軽くなった。もしかすると、この先はまだ人や街が無事かもしれない、と。 しかし喜び勇み竹林を抜けてみれば、何もない荒れ地のような平原だけがただ続いていた。陽の光を遮るものすらない平らな土地は、太古の姿を想像させ、五人の生気を容赦なく奪い取った。 保っていた気力が抜け、兼士は竹林の端に転がった岩に腰掛けた。そして不格好に曲がった缶の炭酸飲料のタブを開け、一気に喉奥へ流し込んだ。常温にも関わらず、異常に冷えた甘い液体が全身に染み渡り、急激に血肉へと吸収されているのが分かった。しかし否応なく鳴る腹の虫が押さえられるわけではなく、どこかで虚しさを忘れることができなかった。
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