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「君はシャワーしたんだろ? 自分だけいい匂いさせて、俺だけ臭いなんて、ずるいよ!」
「なんで? 俺、樹里の匂い、好きなのにさー」
祥平が樹里の首筋に鼻を寄せた。
「やめてって。まじで汗臭いんだってば」
「あー、樹里の匂い。これだけで俺、ほら」
祥平が樹里の手を、自分の股間にあてがった。
固くなった部位は、祥平の興奮を表している。うれしくないはずがない。だけど樹里は素直になれない。
「……ちがうでしょ。さっきから硬かったし」
「あらら。ばれてた?」
さっきからこれみよがしに腰を押し付けてきたのは、どこのどいつだ。
「でも、ほら、樹里だって、コーフンしたんじゃん?」
今度は祥平が樹里の股間をいやらしい手付きで撫でてきた。
「だから! 君がそうやって!」
「はいはい。ごめんね。俺が悪かった。機嫌直して、樹里、ね?」
からかわれているのに、うれしいなんて、自分の質が悪すぎて呆れる。
祥平が樹里を溺愛してくれてるのはよく分かってる。
でもふと不安に襲われるのだ。
愛されれば愛されるほど、万が一たもとを分かつ時が来たことを考えてしまい、怖くなる。
樹里は祥平以外を好きになるなんて考えられない。
でも祥平はどうだろうか。
今はこんなに愛してくれていても、いつか樹里を嫌いになる時がくるかもしれない。
「どうしたの? 不安そうな顔して。そんな顔もかわいいけどさ」
妄想にふけっている間も、祥平は樹里の顔や首筋にキスを落とし、いつのまにかTシャツの中に手を入れて、肌を撫で回していた。
「……ううん。風呂、入りたいなって」
別れの予感に襲われていたなんて、口が裂けても言えない。言ったら最後、お仕置きという名の快楽攻めが待っている。
「しょうがないなあ。入っておいで」
甘やかし大魔王は、樹里が風呂に入ることをようやく許してくれた。
「セックスして疲れ果てた樹里って、めっちゃかわいい。ねえ、今日さぼって、また続きしない?」
「……もう、ほんとに、ごめんなさい。起きるから許して」
「ちょっと、脅したわけじゃないって。本気なんだけど」
「いや、本気のほうが困るって」
のしかかってきた祥平の頬を、樹里は手のひらで思い切り押し返した。彼の端正な顔がぐにゃりと歪んで、でれでれとだらしなく崩れていた。巷の女の子に、超絶爽やかイケメンと騒がれる美形は見る影もない。
でもそんな祥平を知っているのは樹里だけだと思うと、愛おしさが増すばかりだ。
「昨日散々したのに、朝からよく盛れるねえ」
「仕方ないよ。かわいくて色っぽい樹里が悪いんだし?」
祥平は口が達者で、口下手の樹里には到底太刀打ちできない。ああ言えばこういうには黙っているのが一番の対抗策だ。
「樹里!」
起き上がったところを、正面からいきなりだきしめられて。ぐえっとカエルを締め上げたような声が出てしまった。
「な、なに?」
「樹里ばっかり責めてごめん。樹里はちっとも悪くないよ。悪いのは樹里の色気に負けた俺だから。いくら樹里を好きすぎて、いつもエッチしたいって思って、樹里を何回もイカせて、泣きながら、もう止めてって言わせるのが好きだとしても、二度と気絶させるまで抱き潰したりしないから、許してほしい」
「……ちょっと、祥平。それ、わざと言ってるだろ?」
「えへへ、ばれた?」
「もう……」
綺麗な顔でいたずらっ子みたいな表情をされると、それだけで全て許したくなる。結局は惚れすぎたほうが負けなのだ。
神様。どうか自分を祥平の側に居させてください。
そしてこんな何気ない毎日が、どうかずっと続きますように。
the end
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